苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 駅に到着すると、なぜか周囲に人が溢れている。駅構内からは、しきりにアナウンスが流れていた。

「信号故障か……。どうやらホームに降りるのも大変そうだな。芦原はどっち方面へ帰る?」
「えっと、東京駅方面です」

「同じか……。それなら地下鉄で行くか」

 普段、仕事上でしか付き合いのない課長の住まいや個人的なことは、ほとんど知らない。どうやら帰宅先は同じ方面らしく、地下鉄の駅へ向かうことにした。

 しかし遅延の影響だろうか、地下鉄の駅も混雑している。プラットホームに降りると、すぐに列車が滑り込んできた。

 ホームで待っていた乗客は、我先にと乗り込む。二人で乗った場所は、連結付近の車椅子などが入るフリースペースの部分だった。車内はすぐに満員となり、人混みに押されているうちに、課長とは少し離れてしまう。私を気にかけてくれているのか、彼はこちらへチラチラと視線を送っている。

 私は内心ホッとしていた。今夜の気まずい出来事もあり、多少離れていた方が気が休まるからだ。
 発車のアナウンスが流れ、ドアが閉まる音が響く。列車がガタンと動き出し、少し離れた場所に、周囲より頭一つ飛び出ている課長の姿が見えた。

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