苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

「――っ!!」

 バランスを崩してパンプスが脱げ、その拍子に足首へズキンと痛みが走った。もう少しでレストランの入り口なのに。
 近くにいる若い女性が驚いた様子でこちらを見つめている。私は恥ずかしさで、何事もなかったようにパンプスに足を入れ、普通に歩こうとした。

「いたた……」

 まずい。これじゃ、まともに歩けない。
 片足を庇うようにして、何とか目的のレストランまで到着する。
 店の周囲は薄暗くしてあり、中は洋風のランプが照らしている雰囲気のいいお店だった。

 せっかく今夜は二人でゆっくり過ごせるはずなのに……。慌ててパンプスが脱げて足を痛めました、なんて伝えたら……何を言われるか。

 実は、今夜は二人にとって特別な夜だった……。


                       *


 それは数日前のこと。
 陽貴さんと残業帰りの遅い夕食を一緒に取り、食事を終えて駅の改札口まで送ってくれた。彼が言いづらそうにしているのに気付き、そっと尋ねる。

「あの……、何か不満でもあるんですか?」
「リクエスト通り、レストランを予約しておいた。本当に、こんなベタなイベントでいいのか?」

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