苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

「すみません。時間に間に合わないと思って、急いで駆け付けたつもりが……パンプスが脱げて」

「どうして正直に言わない!? 慌てて駆け付ける必要もないだろ。それに、仕事が押したのなら、こっちだって待つ。そんなことより、大丈夫か?」

「すみません……。また詰めが甘いと言われると……焦って」

 そう伝えると、陽貴さんの表情が一瞬曇った。

「そうだな。普段の俺の伝え方が悪い……」

「でも、違うんです。すぐそこまで辿り着いたのに、思わず浮かれて……最初の一歩を踏み間違えて」

 素直に本当の理由を告げると、陽貴さんが片手で目元を押さえ、急に笑い出す。

「とにかく、家まで送るよ。今夜は普通に帰ろう」

 その一言で、一気に周囲の灯りが落ちてしまったように感じてしまった。



 彼の肩を借りて、レストランを出てエントランスまで降りる。ビルの車寄せに到着しているタクシーに乗り込むと、輝くイルミネーションがみるみる遠ざかっていく。

 あぁ……せっかくの夜が台無し。

 窓に映る景色が自宅へ向かっていることを知り、さらに寂しくなった。もう今夜のイベントは終わってしまう。
 ふと右側の手に彼の手が重ねられた。視線を向けると、隣にいる陽貴さんが私を覗き込んでくる。そして、優しい眼差しを送ってきた。

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