苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

「すみません。やっぱり行き先を変更してもらえますか?」

 陽貴さんは、運転席に声をかけた。彼が告げた行く先を知り、急に心音が高まる。車は彼の住むマンションの方へと進み出した。

 タクシーは見慣れない場所を曲がり、しばらく走ると、大きなマンションのエントランスポーチに入った。停車してドアが開き、二人で車を降りる。タクシーが走り去ると、彼の腕がいきなり私の背中へと回された。

「ひゃっ。あの、ちょっと待っ…」

 ふわりと浮き上がり、いつの間にか彼に抱き上げられている。

「さっきから、ずっと寂しい顔をしているように見えたが、違うか?」

 全然違わない。私は全力で、頭を振った。

「どうして分かったんですか?」

「俺は一応、明奈のメンターだからな」

 抱き上げられてエレベーターに乗ると、彼の住む部屋まで運ばれる。
 部屋の前に降ろされ、室内に入る。中は綺麗に整頓されていて、必要な物以外ほとんど置かれていない。十一階に住む彼の部屋からは、遠くに輝くビル群の眩い光が見えた。

 部屋の窓際にある椅子に、ゆっくりと降ろされる。陽貴さんが私の足元へ座り込み、片足を軽く持ち上げた。その状態のまま、片手でそっと、いくつかの場所を触れてみる。

< 183 / 193 >

この作品をシェア

pagetop