苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「すみません。やっぱり行き先を変更してもらえますか?」
陽貴さんは、運転席に声をかけた。彼が告げた行く先を知り、急に心音が高まる。車は彼の住むマンションの方へと進み出した。
タクシーは見慣れない場所を曲がり、しばらく走ると、大きなマンションのエントランスポーチに入った。停車してドアが開き、二人で車を降りる。タクシーが走り去ると、彼の腕がいきなり私の背中へと回された。
「ひゃっ。あの、ちょっと待っ…」
ふわりと浮き上がり、いつの間にか彼に抱き上げられている。
「さっきから、ずっと寂しい顔をしているように見えたが、違うか?」
全然違わない。私は全力で、頭を振った。
「どうして分かったんですか?」
「俺は一応、明奈のメンターだからな」
抱き上げられてエレベーターに乗ると、彼の住む部屋まで運ばれる。
部屋の前に降ろされ、室内に入る。中は綺麗に整頓されていて、必要な物以外ほとんど置かれていない。十一階に住む彼の部屋からは、遠くに輝くビル群の眩い光が見えた。
部屋の窓際にある椅子に、ゆっくりと降ろされる。陽貴さんが私の足元へ座り込み、片足を軽く持ち上げた。その状態のまま、片手でそっと、いくつかの場所を触れてみる。