苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
私は隣へ走り寄った。二人でエントランスを抜けて外へ出ると、真冬の空気が足元に吹き付けた。寒さが体中に伝わり、何だか寂しい気持ちになる。どうしても今後のことが気になって、頭から離れない。
「あの……異動は、いつからになるんですか?」
「全体が動いて、ある程度、引継ぎを終えたら……かな」
以前からそれとなく聞いてはいたけれど、一番ショックだったのは課長の異動だった。経営管理本部への異動ということで、それなりのポジションを提示されてるようだけど、私の本音としては、まだ企画管理本部を見守っていてほしい。
今後は細かな注意点を追及してくる上司がいなくなる。でもその分、自分で判断しなくてはならない。嬉しい半面、不安がつきまとう。
「注意してもらえないと思うと、ちょっと心配で……」
思わず本音を呟いた。課長は立ち止まり、両腕を組むと、真面目な顔をこちらに向ける。
「毎回言ってるだろ。きちんと先回りして準備しないから、詰めが甘くなるんだ」
その一言で、一瞬、背筋がピンと伸びる。彼は、まるで役目を終えたように、すぐに穏やかな顔で笑顔を浮かべた。
「聞きたければ、いつでもそう言ってやる。どこへ所属してようが、芦原の後ろ姿を追いかけるから」
「私だって……いつまでも追いかけますよ」