苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

「停止信号です。急停車します。お気を付けください」

 アナウンスが流れると同時に列車が大きく揺れ、動きが完全に止まった。あと少しで次の駅に到着するところだったのに。張りつめていた気持ちが乱れ、視界はますます薄暗くなっていく。もう限界のような気がして、体の力が抜けていきそうだった。

「すみません。彼女の具合が悪そうなので、近くへ移動してもいいですか?」

 いきなり課長の声が耳に届く。彼は周囲にそう伝えると、人を押し分けるようにして私の前へ現れた。

「発車しまーす!」

 再びアナウンスが流れ、列車が動き出す。

「大丈夫か? もっと傍に寄れ」

 体調が悪くなる中、届いた低い声が心臓をギュッと鷲掴みする。狭まる視界で見上げると、課長は普段見たことのないような神妙な顔つきになっていた。

 彼は私の肩へ手を伸ばし、引き寄せる。そして揺れる度にふらつき、周囲から押されてしまう私を、まるで守ってくれているかのように両腕でガードして抱えてくれた。私はすっかり彼の腕の中にすっぽり収まってしまっている。

「もう少し頑張れるか? 次の駅で降りるぞ」

 その声に導かれ、何とか気力を奮い立たせた。

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