苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「はい……」
「具合が悪くなったのは、アルコールのせいなのか? それとも……」
課長は急に口ごもると正面を見つめ、なぜか躊躇するような表情を浮かべた。
「実は、時々こういう症状が出るんです。閃輝暗点とかいうやつで。今夜は久しぶりになって驚きました」
「久しぶりって、普段からそういう症状が出るのか?」
「そういう訳じゃなく……。原因はよく分からないんですけど、もう大丈夫です」
余計な心配を抱かれそうで、課長へ向けて頬を緩めて笑顔を作る。そして気になることを尋ねた。
「でも、どうして……車内で私の体調が悪いことに気付いて?」
「君は小柄な方だ。人混みに潰されそうで、途中まで一緒に帰宅している部下を放置できない。あくまで上司として適切に対処したつもりだ」
あまりにも堅苦しい言葉を並べられ、それ以上質問できなくなる。
確かに、途中まで一緒に帰っていた部下が倒れて入院でもしたら、業務外とはいえ、責任が生じるかもしれない。それに課長のことだから、上司としてきっちり対処すべきと考えたのだろう。