苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
それにしてもこの空気、個人的な質問しちゃまずいのかな……。
課長との間に、これ以上踏み込んではいけない壁があるような気がした。
「本当にありがとうございました。おかげさまで、すっかり良くなりました」
「あ、あぁ」
頭を下げてお礼を伝えると、課長は頬を引き締めたまま頷く。すっかりいつも通り、会社で見かける姿になっている。彼は姿勢を正したまま左手の甲を胸元へ近付け、時計を確認した。
「で、ここからどうやって帰るつもりだ?」
「えっと、まずは次の電車に乗って……」
「分かった。それなら今夜はタクシーを使っ――」
「いえ、結構です! 全っ然一人で帰れますから。まったく気になさらないでください!!」
おおげさに両手を大きく振り、一人で帰宅できることをアピールした。課長は一瞬戸惑うような様子を見せたが、すぐに表情を戻す。そして、真正面から睨みつけるように顔を近付けてきた。
「本当に大丈夫だな?」
一瞬ビクリとする。メガネの奥にあるセンサーでこちらの本心を探っているように見えた。
「――はい」
すると課長はペンを取り出し、メモを書き始める。そして、そのメモをこちらへ差し出した。