苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

「俺の携帯番号だ。もし何かあったら、すぐここへ連絡を入れるように」
「分かりました。それじゃ、私の番号も……」

「いや、それは必要ない。これは緊急用に伝えただけだ。個人的に連絡先を交換することは得策じゃない」

 急に正論を言われ、妙に納得してしまう。さすがアンドロイド課長、確かにそうだ。今はコンプライアンスも厳しい。部下の連絡先を知ったところで、変な誤解を招くことになりかねない。

「それじゃあ、先に失礼する。気をつけて帰るように」

 急にあっさりと返すと、課長は立ち上がる。そびえるような背の高さとスタイルに、一瞬体もサイボーグのように見えた。そしてこちらへ背中を向けると、颯爽と歩き出す。

 案外素っ気ないんだ……。

 自分で断っておきながら、しばらく人混みに紛れていく課長の背中を見送る。
 ベンチにぽつんと残され、急に現実に戻されたような気分になった。心細さがこみ上げ、苦手な相手でも隣にいてくれただけで安心できるのだと悟る。
 今夜の課長、何だかいつも見るとはちょっと違う気がする。

 常に冷静な判断で仕事をさばいている彼が、慌てて対処してくれたり、焦ってみたり。目の前にいたのは、紳士的な一人の男性の姿だった……。
 そう思うと、何だか急に恥ずかしさがこみ上げてくる。

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