苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
志田さんはこちらの耳元へ近付くと、いつものように砕けた言い方で私の名を呼んだ。
「ふふふ。やばいね、明ちゃん。まさかのメンター相手がアンドロイドとは」
「えぇ。まぁ……」
なぜか嬉しそうにする志田さんに、先週の出来事を打ち明けようか迷った。でも、さすがに電車内で助けられた件もあり、どこまで伝えていいのか分からない。
モヤモヤしながらパソコンを立ち上げる。
事前に送信された社内のメンター制度について、ファイルを開いて再び目を通す。
数年前から似たような制度をスタートしていたらしいけれど、今年はさらに踏み込んだものを目指すそうだ。
文章を要約すると、『悩み事の相談というと敷居が高くなるので、普段から気になっていることをお互いに話し合い、交流を増やし、社内で風通しの良い職場を作ってもらいたい……』とのこと。
もちろん、普段気軽に伝えられない意見を交換できるのはありがたい。けれど、その相手が課長という点が相応しいような、相応しくないような。
確かに課長は仕事ができるし、実績もある。
彼がリーダーをしていた頃、全粒粉を使った新食感の焼き菓子ブランド企画を立ち上げ、流行のキャラクターとコラボしたことでヒットを出した。
課長がかつて担当していた商品企画のチームは、その年の社長賞を受賞し、昇進に繋がったという。