苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 終業時間になり、他の社員たちはパソコンを閉じて帰り支度を始めている。
相変わらず落ち着かない私は、資料を持ったままうろつき、パーテーションの影から遠目に見える課長の席を覗いた。

 すると、彼も帰り支度をして立ち上がるところだ。私は素早く席に戻り、片付けを済ませる。それを見計らい、志田さんが声をかけてきた。

「明ちゃん、早く終わったからご飯でも行かない?」
「え、えっと、すみません。これから用事があって」

 とっさに出た嘘の言葉に、自分でも驚く。

「そっか。じゃ、またね」

 先に上がる志田さんに、ぎこちない顔で手を振る。
 普段なら喜んで彼女のお誘いに乗るはずが、今夜は誰かと食事を楽しむ気分になれない。苦手な相手の噂に振り回されるなんて、どう考えてもおかしい。頭では理解していても、やはり真相は気になってしまう。

 課長のあとを追えば真実が分かるわけでもないのに、企画開発本部の部屋を出ると、すぐにエレベーターへと向かった。エントランスへ降りると彼の姿はすでになく、そのままビルを出る。周囲を見回し、姿を探した。

「はぁ……見失っちゃった」

 って、どうして追いかける必要があるの? そう自分に突っ込みたくなる。

< 43 / 193 >

この作品をシェア

pagetop