苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 このまま帰るわけにもいかず、彼が入った店へと近付く。

 そっと窓の隅から覗くと、店内にはテーブルやベンチが置かれている。そして奥の方で、毛に覆われた大きな物体が、課長の足に纏わり付くのが見えた。

 まさか、うそ……。

 その光景を見て声を上げそうになり、思わず手で口元を押さえる。
 そこは課長が自分の意志で入ることのなさそうな、大型犬専門のカフェだった。

 大型モップのような犬が課長の足元に絡みつき、甘えるように身を委ねている。確か、ミュージカルのアニーに出てくる犬種だ。彼はそのモフモフした毛並みを両手で触り、顔を近付ける。
 そして何か言葉を伝えると、頬を緩めた。その横顔は、一度も見たことのない優しい笑顔だった。
 柔らかな笑みと、犬を楽しそうに撫でる姿に、まるでその一場面だけが切り取られた静止画のように見える。

 わぁぁ。あんな表情もするんだ……。

 すると、犬を撫でていた課長の手が急に止まる。不意に顔を上げ、こちらを振り向き、ガラス戸の隅で覗く私の方へ目を向けた。メガネの奥にある彼の瞳と重なり、瞬時に凍り付く。

 ――やばっ。

 慌てて店の看板に身を隠すようにしゃがみ込んだ。が、それは後の祭り。ドアが開いて、課長がすぐに顔を出す。

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