苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「どうして芦原がここにいる!? それに……なぜ隠れてる?」
「いえっ。その、隠れてる……わけじゃなく……」
いたたまれなくなり、私は慌てて立ち上がって頭を下げた。
「ごめんなさい! 今、見たことはすべて忘れます。私はただの通りすがりなだけで……」
「待て。忘れるってどういうことだ。何か勘違いしてるだろ」
恐る恐る顔を上げると、眉根を寄せ、戸惑ったような表情の課長がいた。彼は一息つくと、すぐに顔を緩ませる。
「……まずは中へ入れ」
「でも……」
彼は私を招き入れるように、ドアを大きく開けてくれた。入り口にはゲートが置かれ、犬たちが外へ飛び出さないように仕切られている。
いつまでも開けてもらっていては申し訳ない。言われるままに、中へと進む。
課長は先程のように、足元へ纏わり付く大型モップ犬の元へ屈み込み、片手でふさふさとした首回りを撫でた。
「今夜はこれで終わりだぞ。また遊んでやるからな」
犬の背中をポンポンと軽く叩き、慣れた調子で話しかける様子はとても自然だった。
会社で見かける彼の雰囲気とは180度違う姿に、見てはいけないような気がしてしまう。このまま目を向けていてもいいのだろうか。