苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
その時、店内からお洒落なデニムの胸当てエプロンを付けた女性が現れ、こちらへ近付いた。
「あら、お客さん? 陽貴の知り合いなの?」
課長の下の名を聞いて、思わずドキリとする。黒く長い髪をアップにしたその女性は目鼻立ちが整った綺麗な女性だった。三十代後半だろうか? 自然で柔らかな笑みに、落ち着いた印象を受ける。
「あぁ、同じ部署で働いている芦原さんだ」
「あ、あの、初めまして」
いきなり紹介され、慌てて頭を下げる。女性は目元を細め、にこやかな表情をこちらへ向けた。
「彼女は月島 伽耶。このカフェのオーナーで、時々経営の相談に乗ってる」
「そうですか……」
「よろしくね。よかったら、後で飲み物を用意するわ。ところで陽貴、会計ソフトのことなんだけど」
「あぁ、確認するよ。芦原、まだ時間があるなら、その辺に座って待ってて」
課長が振り返ってこちらへ声をかけると、店の奥にある部屋へ二人で消えた。言われた通り、近くに置かれた白いベンチに座る。
数分後、数人の客が店を訪れ、他の店員が対応して奥のブースへと案内する。ここからはドアで仕切られて確認できないが、壁に張られた写真を見ると、色々な種類の大型犬が揃っているらしい。動物のいるカフェは人気だが、私は初めて入る。