苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「ところで、芦原はどうしてあの場所に? もしかして、俺たち同じ駅に住んでいるのか?」
「えっと……」
まさか途中まで追いかけてきましたとは言えず、口ごもる。何か適切な理由を探しているうちに、すぐに課長が付け加えるように呟いた。
「違う。これは問い詰めている訳じゃなくて。無理して答えなくてもいい。俺の住まいは、ここから近い。店も多いし、便利だからな」
まさか課長の方から会話の糸口を差し出してくれるとは思わず驚く。それとも、気まずい雰囲気をなくすためだろうか。
店に入り、窓際のテーブル席に案内されると、二人で渡されたメニューを眺めた。
「何か食べたいものは?」
「あの、お任せします」
レストランのメニューより、さっきから心の奥で引っかかっていることを尋ねてみたい。
オーナーが呼んでいた陽貴という名前。どうして下の名前で呼ばれているんだろうか。
課長に対して何の感情もないのだから、素直に尋ねてしまえばいい。そう思うけれど、なぜか聞きづらい。
私はいつもそう。肝心なことは言葉にできないでいる。
元カレと付き合っていた、あの痛い頃の自分が責めるように呟く。
だから恋愛すら、まともにできないんだよ……。