苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
でも、個人的なことを聞く必要なんてない。そう思う自分と、どこか落ち着かない自分がせめぎ合う。
「軽いワインなら飲めそうか?」
そう問われていることに気付き、慌てて顔を上げた。課長の指先が、メニュー表にある赤ワインの写真を辿っている。
「はい。飲めます!」
「仕事の返事よりも早いな」
「すみません」
課長はからかうように頬を緩める。
「冗談だよ。って言っても、俺が言うと冗談には聞こえないか」
そう呟くと柔らかな笑みを浮かべ、片手で軽く前髪をかき上げる。
ドッグカフェで見かけた彼の横顔と重なり、心の奥にじんわりとした温かさ広がった。
課長はすぐにオーダーを通すと、置かれた水を口に含み、ネクタイを少し緩めた。無意識に彼の行動を眺めていたせいか、お互いの視線が重なり合う。
「何か不思議なものでも見てるような、そんな顔をしてるな」
「い、いえ。そんなこと、ないです……」
慌てて視線を手元へ落とすけれど、今さら隠し切れない。きっと今夜の遭遇で、怪しく思われてしまったに違いない。
「今夜はちょうどいい機会だ。メンターとして、少しはお互いのことを知る必要はあるだろ?」
「はぁ……」