苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
もっと自分のことを伝えて、いっそ気になってることをバンバン尋ねた方が親しくなれるのかもしれない。一瞬そう思ったけれど、やはりどこまで踏み込んでいいのか分からない。
しばらくして、店員がテーブルに注文したおつまみを並べてくれた。貝のカルパッチョに、カラフルなシチリアサラダ。窯焼きピザとチーズの盛り合わせ。そしてグラスワインが二つ。
「好きなように食べて。まずはワインの味を試そう」
「いただきます」
目の前にあるグラスを手に取ると、お互い示し合わすように口にした。
普段からワインはあまり飲まないけれど、今夜は飲みたい気分だった。赤ワインは渋いイメージがあるけれど、口の中には爽やかな酸味と仄かな甘みが広がる。
「美味しい……」
「意外と飲みやすいな」
同じワインを口にして、どこか軽やかな気持ちになる。そして不思議と、課長に対して身構えていた心が少しずつ緩んでくる。
「もう白状します。実は電車の中で課長を見かけて……後を追いかけて。つい同じ駅で降りてしまいました」
伝えた反応が怖くて、視線を下げたまま伝える。一瞬沈黙され、恐る恐る視線を上げた。すると課長は驚いたような顔をして、黙ったままこちらを見つめている。