苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「空腹でアルコールは体に悪いだろ。冷めないうちに食べるか」
「……はい」
今夜は心の内を少しだけ打ち明けたせいか、安心して食事ができる。ひとまずチーズを口に入れた。急にお腹が空いていることに気付き、チーズの深い味わいが口いっぱいに広がる。美味しいという感情がじわじわと全身に伝わっていく。
「何かいいことでもあったのか?」
不意に問われ、慌てて口元へ手を当てる。
「ど、どうしてです?」
「嬉しそうに食べてるから」
しまった。つい気を抜いて緩んだ顔をしてしまったらしい。
課長との緊張感が薄まり、しっかり味わって食べられたせいか、思わず笑顔になっていたようだ。
「美味しくて、つい……」
恥ずかしさに小声になる。
すると課長がくくっと声を漏らし、下を向いた。肩が震え、笑い声を我慢している。
「そうか。それなら良かったな」
そう呟くと顔を上げ、隠すことなくこちらへ笑顔を向けた。その笑顔を真正面で受け取ってしまい、急に心音が跳ね上がる。胸の奥が熱くなり、上昇した温度がじわじわと指先まで伝わった。
いつしか、彼のメガネの奥に、温もりを帯びた瞳が存在することに気付いた。
その夜は、穏やかな空気と共に過ぎていく。