苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
駅ビルで、しかも帰宅先は隣の駅なのだから、すぐに帰れることで安心して時間を過ごせた。食事を終えると、店を出る。
エレベーターを待つ間、課長がスマホを取り出した。
「結構ゆっくりしたな。雨雲が近付いてるようだが、三十分以内なら濡れずに帰れるぞ」
「ありがとうございます。駅からは歩いて十分程なので大丈夫です」
帰宅まで気遣ってもらえるとは、さすが細かいところまで気が付く上司。彼のスマホを見て、先日貰った携帯番号を思い出した。
「あ、あの……。やっぱり私の番号、伝えておきますね」
「いや、それは……」
「メンターとして、時々こうして外で会うのでしたら、急に行けなくなった場合に必要ですよね」
課長は戸惑い顔でスマホに視線を落とす。
「分かった。私的には利用しない。これは緊急用として、聞いておく」
私はスマホを取り出し、彼に番号を伝えた。
課長が連絡先を私的に利用するわけがないことくらい重々承知だ。番号一つを丁寧に扱うなんて、本当にキッチリしてる。そう思う一方で、彼がそうまでして自分との間に境界線を引いていることに少し寂しさを感じた。
どうして? こんな気持ちになる必要もないのに……。