苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 今夜はひとまず、芦原たちの会話を聞いていなかったことにしてやり過ごそう。
 週明けには、自分が彼女のメンターになると告げなくてはならない。Cチームのリーダーがしばらく入院することになり、彼の代理で仕事を引き受けることになっていた。

 仕事上の必要なことは引き継いだが、もしもあの会話の通りなら、俺がメンター役として相応しいのか疑問に感じた。

 本当に俺でいいのか……?

 井口はすっかり芦原の友人と打ち解け合っている。次の店の誘いに、芦原は帰ると言い出した。このタイミングで、こちらも距離感を縮められるのではという淡い期待を持った。

 だが、駅までどんな会話をするべきか。仕事上の話をすれば、あまりにも機械的で、再び彼女にストレスを与えそうだ。だからと言って、私生活に踏み込んだ質問では、警戒されるかもしれない。言葉を選んでいるうちに早足になり、彼女と歩くペースさえ合わせられない。

 到着した駅は遅延で混雑しており、仕方なく地下鉄に一緒に乗り込んだ。奥の方へ追いやられた彼女が気になりながら、圧を与えずに会話する方法を、頭の中で探っていた。

 しばらくして、彼女の姿に異変を感じる。どこか顔が青白い。視線も定まらず、具合が悪いようだ。

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