苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
「だから準備が大切だといつも言ってるだろ。充電は常にしっかりしておけ。それから、モバイル……」
すると課長がこちらを驚くような目で見つめ、言葉を止めた。
「あの……どう、しました?」
「なぜ泣いてる?」
慌てて目元を押さえる。気が付くと目尻が濡れ、頬の辺りを伝わっていた。
「なっ、泣いてなんかいませんよ。これ……違います。あれ!? どうしてだろ……」
自分でも驚き、目元の辺りを手で拭った。確かに暗闇は昔から苦手だ。次第に暗くなる中でスマホも使えず、電気も通らず、不安が広がっていたのは事実だった。どうやら課長の顔を見て安心したことで、自然と泣いてしまったらしい。
「ごめん。言い過ぎた……」
「違います。課長が悪いんじゃなくて……ちょっと安心しただけで……」
彼はどうすればいいか分からず、戸惑った顔をして足元を見つめている。私は思い切って声をかけた。
「あの。実はデザートだけ、できてるんです。せっかく来てもらったので、一緒に食べませんか?」
今度こそ堂々と尋ねる。どうせここまで来てもらったのなら、一緒に味わってもらいたい。課長はしばらく考えると、何かを決断したように顔を上げた。
「分かった。ご馳走になるよ」