苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~

 誰にも言えなかったことを、課長に聞いてもらうだなんて。
 薄暗い中、一人で父を待っていた夜を思い出す。大したことのない記憶だと思っていたことが、意外とそうではないと、今さら気付かされる。

「結局、疲れて帰って来た父親には打ち明けられなかったんですけどね。恥ずかしいですけど、今でも夜は小さな明かりをつけて寝てます」

 きっと幼い頃の私は、父親に対して、不安だった気持ちをすべて聞いてもらいたかったのだ。それなのに、その気持ちを隠したまま成長し、心の奥にある不安を打ち明けられないまま大人になった。
 もしかしてそのせいで、誰かに本音を伝えることが苦手になったのかもしれない。

 はっきりとした理由は分からない。でも私にとって暗闇は、どこか無意識に不安を搔き立てしまうらしい。
 スプーンに掬ったケーキを口に入れる。甘くて少し酸っぱい味わいが広がる。

 何だか、ちょっぴり切ない味……。

 きっと仕事で疲れた週末だから、そして課長がいつもより優しいから、こんな気持ちになるんだ。
 しばらく無言で聞いていた彼は、こちらを見つめると、穏やかな声を響かせた。

「せっかくメンターになったんだ。これからは、もっと気軽に相談してほしい。仕事で言いづらいことも、ひとまず話をしてくれ。できるだけ受けとめるから」
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