苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
噂通り、とても美形だったんだ……。
課長の腕の中、電車内で助けられた状況を思い出す。あの時は具合が悪く、それどころじゃなかったけど、彼の潔い行動とその姿は忘れられない。胸の奥から次々と熱を帯びた感情が湧き上がった。そして、なぜか彼は私を抱きかかえたまま、視線を離さず静止している。
するといきなり、パッと周囲が明るくなり、電気機器が一斉に元に戻った。
瞬時に二人で抱き合っている状況が照らされ、お互いの気まずさに視線を逸らした。慌てて課長が私の体を起こし、背中に回した腕を引き抜く。
「おい。毎回、気を付けろ」
いつもの口調で課長が声を上げる。
「す、すみません! キッチンがごちゃごちゃで……」
「そうだな。周囲を片付けながら調理すれば効率も上がる。電気も元に戻ったようだから、最後まで完成させろ。俺はもう帰るから」
慌ただしく帰ろうとする彼に、再び声をかけて呼び止めた。
「あ、あの。もう少し煮込めば完成します。せっかくなので、カレーも食べてもらえたら」
課長は驚くような顔をしてこちらに目を向けた。前髪をかき上げる仕草で、いつも平然としている彼の態度が、なぜか落ち着かないように見える。そして彼の耳の周囲が、仄かに赤みを帯びたように感じた。
どうしよう……困らせた?