苦くて甘い恋のゆくえ~無機質な堅物上司がメンターですが、本音なんて言えません~
トイレの前を通り過ぎようとして、中から誰かが飛び出してきた。その相手とぶつかりそうになり、顔を見てハッとする。相手はAチームにいる先輩の天野さんだった。
その顔は泣いているように見え、私と目が合うと、慌てて顔を背けた。そして狼狽したように顔を伏せ、廊下を走り去る。
え、何? 何があったの!?
その様子が心配になったけれど、一瞬のことで声をかけることもできなかった。
トイレの前で立ち止まっていると、また別の女性が現れる。相手の顔を見てさらに驚いた。それは後藤さんで、どこか表情を強張らせたまま、私の前を通り過ぎて行く。
胸の奥がざわつき、何か妙な雰囲気を感じて、心の中で引っかかる。
ただ、私が別チームのことをどうこう言う立場でもない。後味が悪いまま、その場を離れるしかなかった。
午後に入ってからは入力作業が続いた。この仕事は、次の会議までにまとめておきたい。パソコン作業に集中している途中、突然低い声が耳に届く。
「芦原」
パソコン画面から慌てて顔を上げると、目の前にいたのは課長だった。
いつの間にかチーム内のメンバーは帰宅しており、一人になっていた。そう言えば、先輩たちは二人で飲みに行くと言って、就業時間で先に退社していたのだ。