追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 駅から降りて動物園に向かった。気候もよく春の爽やかさがあって気持ちがいい。丁度、小学生の低学年が遠足に来ていた。ゲートに並んで入っていく姿に自然と微笑むのだ。

「可愛い」
「こんな時から藍に会いたかった」
「あの、私がこの年齢だと先生は赤ちゃんですよ」
「赤ちゃんなら無理か」

がっかりした姿が可愛くて笑ってしまった。旭といると自然体でいられると感じていた。笑顔が絶えな間なく続くのだ。

「先生、見てください。シマウマですよ。この子たち見ていると平和ですよね」
「平和っていいよな。何からも追われず囲われて安全安心だ」
「疲れています?帰りましょうか?」
「いやだ」
「あー、先生、こっちに鹿いますよ。鹿」
「藍に似ている。今だって飛び跳ねて、あっちこっち行くから」
「やめてください。年甲斐もなく、はしゃいでいるって言いたいんですか?そんなこと言ったら、先生は檻の中でウロウロしている虎みたいですよ」
「その虎。ウロウロしているのは、常同行動って言って、ストレス溜まっているからだ」
「ストレス溜まっているんですか?」
「その虎の気持ちが分かる気がしてきた。知らないうちにストレス溜まっているんだ」
「そうなんですか?気づかず、すみません。書斎でウロウロしていたのは、ストレスだったなんて」
「そうなの気づかなかった。書斎でウロウロしてるのは無意識だ」
「それ気づいていないんですか?重症ですよ」
「それやめて。病人みたいで気が滅入る」
「先生、考えすぎです。ストレス溜まっているのが、気が付いていないなら、なかったことにしたらどうですか?」
「もう気づいたから完璧にストレスになっている。それから2人でいるときは旭って呼んで」
「はいはい、旭」
「ふざけて呼ぶなよ」

藍は笑って走り出した。

「旭、アイス食べようよ」

動物を楽しく見て、アイスクリームを買って交換して食べて、ふざけあって笑いあって幸せだった。何気ない日々が、こんなにも特別だったことを初めて感じた。
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