追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 ゆうが去ってから1ヶ月が経った。ゆうからは忙しいが、元気にしているとメールがあった。

旭の方は、本が話題となり、ベストセラーになっていた。まだ続編が続くので、どれだけ売れるのか検討がつかないくらいだ。角栄社は、今年度の最高傑作と力を入れて重版を繰り返した。

藍は旭のサポーターを抜かりがなくやり遂げている。上、中、下と3冊を出版することになる。1冊目の上が好評で、続いて2冊目の中も出ると、事前の宣伝なしでも面白いほど売れていた。

上は2人が生まれてから好意を寄せる淡い恋物語。中は痛いほどの切ない恋心が描かれていた。そこに崖のシーンがある旭の死で終わる。

この2冊目で終わるのではなく、下の3冊目で藍姫のその後と死ぬまでが描かれる予定だ。

旭にとって、下が1番辛い執筆だ。藍姫の死と向き合うことになるからだ。乳母の子孫からもらった漆器の箱の手紙で、向き合った辛さが忘れられない。

痛いほどの苦しみを感じたのだ。自分が死ぬことで、白藍の姫と別れる悲しみよりも辛い。

だが、第三者には自分の作品をどう映っているか、読者の気持ちを知りたくなった。また厳しい批判で自分を奮い立たせることが、できるかもしれないと考えた。

臆病な自分を戒めたいのだ。そこで旭は角栄社の本の一般読書会の参加をしたいと思い。そこで藍に相談した。

「自分の作品の読者会って、佐藤旭だとバレますよ」
「変装するから」
「じゃあ、角栄社が主催して、読書会、兼ファンの集い的にしませんか?」
「それって、褒めまくられ、有頂天で終わるやつだろ」
「そうして欲しいんじゃないんですか?」
「そんな訳ない。アンチの声も聞いて、僕なりに反省点が欲しい」
「それいりますか?売れてるんだから、それでいいんじゃないんですか?」
「それは売りたい側の人が言う言葉だよ。これから僕は今まで以上に、この仕事で生きていかないといけないんだ」
「これだけ売れたら安泰です」
「結婚もしたいし、奥さんに楽させたい」
「奥さん、幸せ者ですよね」
「何、他人事なの?」
「え、どうしてですか?」
「僕たち、付き合ってるよね」
「そうですけど」
「僕の傍に、ずっといて欲しい」
「いますよ。今だって傍に」
「だから、結婚したいの」
「誰と?」 
「貴女と」
「えー、まだ付き合ったばっかりですよ」
「5歳違いだと年を気にして言うから、結婚したら年なんて考えないでしょ」
「それはそうですが、5歳は縮まりませんよ」
「でも結婚したら僕のこと遠ざけることないでしょ」
「まぁ、そうだけど」

旭に押し切られた感じで、読書会に参加することになった。初めての読書会で藍も知らないことだらけだ。参加もどうしていいのか疑問だった。
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