追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 藍は旭といることが当たり前になって、岡田の事をすっかり忘れていた。心の中から岡田の存在が消えていたのだ。

でも執着がある愛情表現を持つ岡田なのだ。その執念は旭に取って、気掛かりなものになっていた。旭の勘は当たっていた。

 藍が出勤する度に、嫌な視線が感じていた。ある帰宅時、電車内で、岡田らしき人物を見た。

無理矢理、拉致されて監禁状態になった恐怖が蘇るのだ。足が竦む一歩が前に出ない。気がつくと、岡田が正面で藍を見ている。

距離はあるが、向き合ったまま、立ち止まっている。こちらに近づく事はせず、ニヤリと笑う顔を見た。

凍りついた藍の顔は、血の気が引いていたのだ。そして、その場に崩れ落ちた。

それは腰が抜けて足が立たない。下を向いたまま顔が上げられない。今をやり過ごすように動かずに、じっとしていた。

「大丈夫ですか?」

顔を上げると、見知らぬ女性が声をかけてきた。

「だ、大丈夫です」

そう言うと岡田がいた場所に目をやるが、誰も立っておらず、安堵した。

岡田がいたのは錯覚だろうかと思われた。いや違うと藍は思う。

何故なら、あの表情は頭の中から離れない。何を考えているか分からない。岡田の冷たく笑う顔は、どこにも逃げられないと蔑んだようだった。それが忘れていた恐怖なのだ。

平穏な日々を奪われるように思われた。冷静になろうと言い聞かせたが、心が震えていた。岡田に縛られて離れられらないのだろうか。

このままではいけないと、藍は立ち上がり電車を降りた。
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