追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 救急車が到着すると、あたりに急かされて藍は乗り込み病院に向かった。

救急搬送された病院では、旭の背中の傷は内臓まで達していた。手術が必要となり、それは夜中までかかっていた。

藍は生きた心地がしなかった。気がつくと、白いブラウスは血に染まっていた。まるで藍の心に刃が刺さって、血が流れ出たように痛みを感じた。

ブラウスについた旭の血を握り締め、ただ生きてほしいと願うだけだった。

長い長い時間の後、手術は成功したと医師から告げられ、安堵したあと、藍は疲れからか気を失った。それから藍は長い夢を見た。


14歳の旭と白藍の姫は、屋敷に敵軍が侵入してきたことを知らされた。乳母が2人を逃そうと、必死に屋敷の裏口から外に出した。乳母は自分が一緒なら逃げられないと2人に言う。

「姫様、旭。どうか2人は逃げてくださいませ。どうか無事で」
「嫌じゃ。一緒に行こう」
「私と一緒では逃げられません。旭、姫様を頼みましたよ」
「はい」

白藍の姫は乳母の手を離せなかった。旭はその手を剥がし、白藍の姫を支えるように腰に手を回して歩き出した。道先は山に向かう、なだらかな坂道を歩いた。

気がつくと乳母の居場所からは遠く離れていた。すると山の中腹から3人の敵軍の男たちが追ってくるのが目に入った。旭は白藍の姫を気遣いながら足を早めた。

どんどん敵が近づいてくるのを感じて、白藍の姫を守るため必死に逃げた。だが白藍の姫は限界がきていた。追い詰められて道はもうない。川に向かって逃げるしかない。

「神よ。どうか姫だけでもお助けください」

旭の心が叫んでいた。白藍の姫を抱き抱え川に吸い込まれるように落ちて行く。刺さる矢の痛みなど耐えられる。川の水しぶきとともに2人の姿は消えていた。

旭はもがき白藍の姫の体を抱えて泳ぎ出した。白藍の姫は旭の胸元の襟を、しっかり掴み離さなかった。離れれば旭が消えていく気がしたからだ。
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