続 追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 藍は遠西寺 秀子の所に来ていた。連載の原稿を確認するためだ。本当はメールのやり取りで済むことだ。

でも秀子は編集の担当と会って内容の細かいやり取りをすることを好むのだ。

実際会って話すとアイデアがわいてくるのだ。編集者の読んでいる顔を見て反応を受ける。その良し悪しで、手ごたえを感じて作り上げたい。

やはり60才を超えると目の前の反応が重要で、誰かがという曖昧な言葉が信じがたいのだ。だから藍の真っ直ぐで素直な表情とその意見が信じられるということだ。

実際、藍が目の前で小説を読む姿を見て、くるくる変わる表情を楽しんでいた。今回は秀子の自信作であるから力が入っている。

この連載で次は直木賞を狙っているのだから自ずと力が入るのは当たり前かもしねない。読み終わった藍の顔を覗き込んで真剣な表情で聞いた。

「どうかしら?主人公の心の動きが複雑過ぎるけれど、その心情は理解できるかしら?」
「はい、少女だつた主人公が、大人へと成長したところの心の移り変わりが非常にいいです。感情移入が出来ます」
「そう、分かってくれる」
「ええ、勿論です。しかし相手の反応が薄いと感じるんですが、それは意図があってのことですか?」
「そうなの。そこが肝心で次回に、その真相が分かるのよ」
「そうですか。次回が楽しみになりますね」
「書いていると色々空想して心が高鳴るなよ」
「それいいですね。」
「ところでどうかしら。文章で引っ掛かって読みづらいことない?」
「そんなには気にならないですが、そう言われるとここが」

藍はページをめくり、その段落を指差して気になることを伝えた。2人は本題の内容も細かいところまで意見し合い濃い時間を過ごした。
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