追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 翌日の朝になった。坂原家の乳母の所へと行く予定だ。
 旭を迎えに行き顔を見ると昨日のことを思い出す。旭の子供じみたところが可愛く思えた。自身の母性本能がくすぐられるのを感じた。

作家、佐藤旭の誰も知らない一面を知って、1人ほぐそ笑むのだ。

「何笑っているの?」
「別に何もありません。さあ坂原家の乳母の子孫のお宅にお邪魔します。バスにかなり長い時間、乗りますからね」

ホテルからバスの停留所までは近いが、乳母の住居までは、遠くて長い時間、バスに揺られた。

田舎の村はバスの本数も少ないので、朝早くに出かけせいで眠気が押し寄せてくる。バスの中は揺れが心地良かった。藍はいつの間にか旭の肩を借りて眠っていた。

 

そこはとても居心地のよい場所。暖かい日差しの当たる縁側で、座っている乳母に優しく抱かれ夢うつつの狭間にいた。

うとうとしていると、悪戯な顔をした美しい子供が揺り起こす。

「これ旭、駄目ですよ。藍姫さまが起きてしまいます」
「姫さま遊びましょう」

目をぱつちと開けると美しい笑顔に見惚れてしまう。
その顔の輪郭を優しくなでた。すると猫のように顔を藍の手に擦りつける。

笑いがでた。その声が嬉しいのか、また楽しげに顔を擦り付ける。いつの間にか藍の手からすり抜けて外に走り出す。それを追いかけて藍も走り出した。

「藍姫さま危のうございます」乳母は心配した。
「大丈夫じゃ」

大きな笑い声は、幸せに溢れるように辺りに響き渡った。
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