追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 藍は笑いながら目が覚めた。顔を上げると旭の視線を感じて、横を見たら冷たい顔がそこにあった。

「すみません。何か変なこと言ってませんか?」
「よく眠れるような。はじめてのバスなのに寝過ごしたらどうするの?」
「すみません。とても良い夢で現実にあったように鮮明でして」

藍はあの少年を見たことがあると思っていたら旭だと気づく。5歳か6歳くらいだろうか。旭の子供の頃も、美しい顔は健在だったのだろう。

「どんな夢?」
「え」
「だから、どんな夢?」
「私の夢って聞きたいですか?」
「人は潜在意識が夢に出てくることがある。だから興味がある。」
「まぁ、本を書く意味が出るのなら話しますが、たいした夢では無いですよ」
「そんな勿体ぶらないでよ」
「はいはい、話しますよ。今から乳母の家に行くと思っているので、その夢を見ました。乳母に抱かれ縁側で寝ていると。可愛い少年がゆり起こすんです。ほっぺを触るとスリスリして、猫みたいなんです。私が笑うと余計にスリスリして、美しいやら可愛いやら」
「それ覚えてないの?」
「えっ、覚えてるも、なにも夢ですよ」
「ふーん」
「なんですか?その不満そうな態度は」
「別に、もういいよ。」
「気になります。そんな言い方」
「なんでもないって」

旭が寂しそうにしているのが、気になって仕方がなかった。この小説が悲劇になるのかは旭次第だ。

今のままでは悲劇になるなと藍は思った。どちらにしても佐藤旭の小説だ。ベストセラーになるのは間違いないのだ。
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