追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 取材旅行が思いのほか、早く終わった。1日早くの帰宅は岡田には知らせていない。土曜日でも家にいないのだから知らせる必要は無いだろうと思った。

だけど、帰って来るかもしれない。岡田の夕飯ぐらいは、用意をしようとスーパーへ行ってから帰宅した。

玄関のドアの鍵を開けると、女物のハイヒールが並べてあった。藍はそんなハイヒールなんて履いたことがないと思った。。嫌な予感がした。


 玄関を入って、直ぐのベッドルームのドアが5センチほど開いていた。その隙間を軽く開けると岡田と見ず知らずの女が絡み合っている。藍は買い物をしたスーパーの袋を落とすと、大きな音を立てて床に野菜が転がった。

岡田と女はびっくりしたのか、一瞬止まって藍の方を見た。その姿は滑稽で、まるで他人事のような第三者の目で藍は見ていた。そんな冷静なもう1人の自分が怖くもあった。

それはやっと、これで終わりにすることができる。別れる理由ができたことに、ほっとしたような思いが心の片隅にあった。

2人の目の前で藍は、別のスーツケースを出して荷物をまとめた。岡田とその女が見えないかのように、修羅場なのに泣き叫ぶ事はなかった。平気な顔して、必要な荷物を無言でスーツケースの中に入れるだけだった。

「藍、何している?」

岡田が焦った声で問いかけた。
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