追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 岡田は急いで服を着て、藍が荷物をまとめる手を押さえて止めた。その手を振り解いて、洋服ダンスの服や下着を出した。それを畳まずに大きなスーツケースの中に放り投げるように入れた。

「話そう。これは誤解なんだ」
「何が誤解なの?」 
「いや、あの、魔がさして」

女は服を着ていた手を止めて、怒り奮闘したらしく、荒々しい言葉で岡田に問いかけた。

「どういうこと?魔がさしたって、酷すぎない」
「いや、それは」

女は岡田に強く怒りをぶつけていた。その間も藍は黙々と荷物をまとめて、最後に結婚資金を貯めた自分の通帳を出して鞄に入れた。そして玄関まで行き、ローヒールの靴を履いていた。

女と争っていた岡田は、藍が玄関に行くのに気づいて、追いかけきて腕を掴んだ。

「離して。この頃、帰ってこないから、薄々こうなると思った。しかも私たちの家に連れ込むなんて最低。もう終わりね」
「待てよ藍」

女か玄関まで来て藍に向かって言った。

「この女、冷静なふりをして、気を引いているだけよ」
「貴女のお陰で冷静にいられるわ。こんな男でよかったら譲るわよ」挑発してくる女に藍は言った。
「何強がっているの?ばかじゃない」
「貴女も痛い目に合わなければいいわね。さようなら」

藍は玄関の扉を出て荒々しく閉めた。見ず知らずの女に挑発されて怒りが沸いてきた。

その女は扉の奥で、毒付いた言葉を投げかけるのをやめない。岡田はその女にも良い顔しているのが想像できた。藍が出て行っても追いかけてくることはなかった。
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