追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 タクシーを降りた藍は、さんざん泣いたので、何事もなかったようにすっきりした顔だ。

スーツケースをトランクから下ろしてもらい旭の家まで押して行った。家の近くまで来ると、大きな駐車場の隅にスーツケースを置かせてもらう。

インターホンを鳴らす。出てきた旭を見ると、編集者の自分が戻ってきた。プライベートの情けない部分は隠したかった。だが、旭はすぐに見破る。

「辛そうだ。僕のところにいればいいよ」
「なんですか?やめてください。私、何も言っていませんよ」
「言わなくても分かる」
「先生にはかなわない。すぐに私の心を読まれる。格好悪いところばかり見せてしまうなんて」
「いいよ。隠す事は無い。辛い思いをしたんだろう。顔を見れば分かる。僕は全て受け入れられる」
「やめてください。何も知らないのに、男に裏切られたって、先生に縋る訳ない」
「そうか、大変だったんだな」

藍は目をそらした。強がっている藍を受け入れる旭は、優しさで溢れていた。 

藍は意地っ張りで、負けず嫌いで、情けないと思えた。タクシーの中でさんざん泣いたのに、涙は枯れていなかったのだ。
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