追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 旭は白藍の姫の扱いは心得ている。プライドの高い姫だから否定はしない。ただ寄りそうだけで白藍の姫は落ち着く。旭がいるだけでいいのだ。

「さぁ、入って写真見せてよ」

旭は話を変えて藍を家に入れた。旭の明るい声は、藍の心を不思議と和ませた。いつしか旭のペースに乗せられて、玄関を上がりリビングのソファーに座っていた。

そこは整理された心地の良い空間だ。乱雑に荷物をまとめた自分が、遠い昔のようだと錯覚してしまうのだ。

旭は紅茶を入れて、藍の目の前のテーブルに置いた。そして横に座る。藍は鞄からデジタルカメラを出して渡した。旭はカメラの電源を入れて、中の写真を見ながら言う。

「ねぇ、今日泊まる所ないんでしょう?」
「どうして?」
「だって駐車場に置いたスーツケース」
「スーツケースのこと知っていたんですか」
「玄関の近くで物音がすれば分かるよ。困った時は僕を利用して」
「それはできません」
「じゃぁ、今日だけでもいいよ。僕の担当の編集者さんなのに、放っておけないよ」

旭は慎重に言葉を待った。藍の性格は充分知っていたからだ。

(自分で決めたいのだろう。急ぐ事は無い。これだけ長い時間を待ったのだ。その答えなど、一瞬に過ぎない)
そう心の中で思っていた。

藍の方は戸惑っていた。
(いきなり家を出てきて途方に暮れていたので助かる。だけど、公私混同はできない)

そう考え、迷いながらも旭の優しさに縋り付きたかった。誰も頼ることができない辛さを感じていたからだ。

思い切って泊めてもらいたいと答えを出すのに、時間がかかる。そして重い口をやっとのことで開いた。

「ありがとうございます。お言葉に甘えて、今日だけ…」
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