追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 藍は旭と取材旅行に行ったこと、その後、早く帰れたので同棲してる彼に連絡なく帰ったこと。そこに見知らぬ女を連れ込んでいたことを話した。

秀子はびっくりした。良い女を手に入れたのに、違う女に手を出すなんて、許せないと激怒していた。藍は話したことで心が軽くなった気がした。縛られていた心が解けたように思えたのだった。

「遠西寺先生に話したら、心が軽くなりました。混乱していて、心の持って行きようが、どうしていいか分からなかったんです」
「話すとね。頭の中が整理されるのよ。(心臓をおさえて言う)ここでは割り切れないものがたくさんあるの。話す事は自分を分析して冷静になれるわ」
「なんとなく分かるような気がします。さすが作家さんですね。感心します」
「まぁね。でも年も関係しているわ。そんなに暑くなれないわよ。若いっていいわね」
「そうですか。情熱は先生の方が上のようですよ」
「そう。まだまだ心は若いってことかしら」
「見た目も若いですよ」
「ありがとう。嘘でも、嬉しい言葉ね」
「嘘じゃないですよ。遠西寺先生と話していたら、元気が出ます」
「作家と言えば、佐藤先生はどう。恋愛対象にならない?」
「やめてください。年が離れていますし、私なんか釣り合いません」
「年なんて関係ないわよ。同じ人間に釣り合う釣り合わないなんてありません」
「そうでしょうか」

話の途中に血相変えて旭が飛び込んできた。一度、家に帰ったらしく。藍の荷物がないのに気づいた。まるで旭は別人のように、いつもの冷静な態度が、一変して激しい剣幕で駆け寄ってきた。

「大林さんどして荷物をまとめて出ていたんだ」
「先生に迷惑かけられません」
「困っているときは、お互い様だ。そんな時だからこそ頼ってほしい」
「先生の執筆を邪魔したらいけないので」
「邪魔なんて事は無い。大林さんがいない方が気になって書けないよ」
「いえいえ、同情していただかなくても、大人なので大丈夫です」
「僕が大丈夫じゃない」
「先生に、変な噂が立っても駄目ですし、男女が2人きりでいるのは、世間的にもちょっと」
「じゃあ、僕の友達を呼ぶよ。女の子も同然。それならいい?」
「そういう問題じゃなくて」

横にいた秀子が笑い出した。2人の関係は良好なように見え、旭が藍に夢中なのが分かった。お互いの気持ちが見えていないのは、直ぐに察しがつく。
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