追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 シェアハウスに来て、もう1ヵ月が経った。旭の連載は今まで以上に評判が良く、小説の雑誌としては最高の売り上げになっていた。

それは佐藤旭が時代小説を描くのだから、斬新で新鮮で衝撃的なのだ。また書き上げていないのに、映画化の話が来ているのはさすがだとも言える。

藍は相変わらず忙しいが、旭やゆうに比べて大したことがないと思えた。そんな2人が藍の会社の前で待っていた。

「あ、キタキタ。藍ちゃん!」
藍はゆうに手を振って答えた。

「どうしたんですか? 2人揃って迎えに来るなんて」
「夜ご飯作るのも大変だから、みんなで外食しようと思ってね」旭は続けて言う。
「それが、他にもいて」

ゆうの後ろから、またしても美人の女性が現れた。

「じゃん。はじめまして葵です。旭の大学の同級生なんです」
「はじめまして。大林です」
「なんだ。もっと美人と思ったけど、ゆうの方が超美人じゃん」
「葵、貴女ね。藍ちゃんだって綺麗よ。その上、内から出てくる美しさだってあるのよ」
「ゆう、苦しげに言ってない?無理しなくてもいいわよ」葵が挑発的に言った。
「葵、失礼だぞ」旭がむっとして言った。
「だって、旭が私と2人だけの食事に誘ったのに断ったの。だから無理矢理、あなたたちの食事会に参加したのよ。来てみたらがっかり。普通のおばさんとじゃない」
「お前には見る目がないんだ」旭が機嫌悪く言った。

旭が藍の耳元で「大林さんが1番綺麗だ」
藍は赤くなった。「やめてください。おばさんに」

旭は藍のその反応が可愛くて笑った。
「旭、何がおかしいの。教えて」ゆうが知りたがった。
「内緒」
「何、それ」ゆうも可笑しくなって笑う。
「私にも教えなさいよ」
「葵には、絶対教えない」旭はそう言うと走り出した。

笑いながら、3人は走っていた。藍は置いてけぼりされて慌てて追いかけた。

「どこ行くんですか?」藍は聞いた。
「イタリアンの店、早くおいでよ。大林さん」
「待ってください」藍は小走りに追いかけた。

後から怪しげな影が、じっと4人を見ていた。藍は気配を感じて後ろを振り向くが、何もない様子に気のせいだと思い、皆のいる場所にまた走り出した。
< 59 / 117 >

この作品をシェア

pagetop