追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 藍はこれまでも、すごい売れっ子だと思っていた旭が、更に手が届かないところまで行ったと感じていた。

まだ大学も卒業していない。若い作家だから、余計に話題となったのだ。この先、末恐ろしいと雑誌にまで書かれていた。その雑誌を手にして見ていると、後輩の山田唯(やまだ ゆい)が声をかけてきた。

「大林先輩、どうしたんですか。佐藤先生に見とれていたんですか?」
「あ、山田さん。それがね。佐藤先生は群を抜いた傑物だから、見とれてるなんて恐れ多いわ」
「何言ってるんですか。担当ですよ。佐藤先生のファンなら、ここぞと押して、私に作家との恋愛に期待を持たせてください」
「それ駄目でしょ。作家に手を出さない」
「え、作家から手を出して良くて、編集者からは駄目なんですか」
「どっちも駄目」
「そんな硬いこと言って。夢も希望もないじゃないですか」
「希望はあるでしょう。本が売れると、私たち御の字でしょう。おまんまの食いっぱぐれもなくて」
「先輩、時代小説の担当だからって、その表現どうかと思いますよ。ただの親父化しているだけですよ。まだ若いんですからやめてください」
「何を。私が若いって本当に思ってる? 27だよ」
「まぁ世間では、まだ20代だし、若いんじゃないですか。あ、佐藤先生と比べていません?そんなの駄目ですよ」 
「やっぱり、若さには、敵わないな」
「そんな弱気にならないでください。私も工藤先生、狙っていますから」
「えー、すごい年上よね。父親って言っても信じるくらいなのに」
「いいえ、年の差なんて気にしませんよ。この業界入ったのも工藤先生狙いです。念願の担当になったのだから、ぐいぐい行きますよ。先生は独身なんで遠慮なくね」
「すごいわ。そんな不純な動機で、工藤先生のファンは怒るわよ」
「いいんです。このために嫌いな学業も頑張って、良い大学も入り、就職活動も死ぬ気でやりましたから、必ず努力は報われると信じています。だから先輩も頑張ってください」

後輩は言うだけ言って、自分の仕事に戻った。何を頑張ればいいのか、藍は旭に心が揺れているのは、自分でも自覚していた。

それは姫の感情を聞くものだから、何度も姫だったらと考えてみるのだ。時々、小説の旭が佐藤先生で、白藍の姫が自分となって夢に現れる。

幼い時の楽しい思い出や旭への初恋、そして別離の崖の上、目覚めるといつも泣いていた。

それは子供のように泣きじゃくり。旭、旭と名前を読んでいた。現実味のある夢を何度も見るのだ。

もしかして藍は、白藍の姫の生まれ変わりだと錯覚する程だ。そんな訳ないかと思いながら、夢うつつ状態で、徐々に目覚めていき、現実に戻るのだ。
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