追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 旭の選んだ高級レストランで、食事代を頭の中で想像した。カードで払おうかと考えていたのだ。それから居心地が良くないのは、この服装がカジュアルすぎるせいだと気づいた。

「あの先生、ここは?」
「あ、僕の知り合いが経営しているレストラン」
「そうなんですね。あの私、こんな服装でいいんですか?先生に恥かかせてませんか?」
「大林さんは綺麗なんだから、どんな服装でも大丈夫丈」
「いやいや、綺麗なんて、とんでもない。ただ、あの…」

オーナーらしき男性が来たので言葉を止めた。その男性は旭に挨拶をした。

「久しぶり旭。元気そうじゃん。言ってた人って彼女なの?」
「うん、約束通り連れてきた」
「お、美人さんだ。初めまして旭の友達の鈴木です」
「初めまして大林です」
「藍さんですね。こいつシャイだから、小説家のくせに言葉足らずなところあるんで。でもいい奴だから、よろしくお願いします。今日はゆっくりしていて下さいね」
「ありがとうございます」

鈴木は頭を下げてから旭に言った。

「今日はゆっくりしていけよ。真剣に考えている彼女だって言うから、豪華な料理用意したからな」
「ありがとう」
「じゃぁ、上手くやれよ」

そう言うと藍に微笑んで、店の奥に消えて行った。藍は彼女という言葉に引っかかっていた。

「あの先生。彼女とは?」
「大林さん、約束したよね。雑誌の取材うけたら何でもするって」
「はい、まずは食事をおごって」
「違うよ。僕の彼女になってください」

ポケットから指輪が入った箱を出して真剣な眼差しで言った。

「僕と結婚を前提にお付き合いしてください」
「えー、それ本当に言っています?」
「当たり前でしょう。こんなこと冗談で言わないよ」
「あのー、私の状況を分かって言っています?彼と別れたから、付き合うとか考えられないって、前に言いましたよね」
「僕じゃ駄目?」
「駄目とかじゃなくて」
「約束だろう。なんでもするって」
「それはズルいです」
「ズルくてもなんでも手段を選ばない。大林さんじゃないと駄目なんだ」
「そこまで私に執着しなくても。先生ならどんな人でも喜んで彼女さんになりたいと思いますよ。選り取りみどりですよ」
「じゃあ、選り取りみどりなら大林さん選ぶ」
「じゃなくて」
「まぁ、とにかく考えてよ。返事は今すぐじゃなくていいよ。約束は忘れないでね」
「だったら、そのジュエリーボックスをしまってください」
「じゃぁ、また今度で」

その言葉に言い返そうとすると、前菜が運ばれてきた。気まずい感じで食事が始まった。
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