追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 仕方なく運ばれてきた前菜の皿を黙って見ていた。その皿の上の前菜は、芸術的に美しく飾りつけられていた。

小さくまとまった段々と重ねられた野菜に生ハムが、フリルのように飾り付けられていた。

その上に飾りのように、黒トリュフのスライスがのっている贅沢なものだった。前菜でこんなに目を見張るのだから、その後に豪華なものが次々と出てきた。

それにメインの神戸牛のステーキは、ひと口食べれば、とろけるようで、口の中に旨み広がる。

 藍はあまりの美味しさに夢中になって食べていた。それもそのはず、取材が長引いて、食事もまともに取れなかった。普通でも美味しいものが更に美味しく感じるのだ。

最後のデザートの苺のムースが中心に入ったケーキは藍が好むものだ。苺には目がないのだから嬉しかった。ひとくち口にしたら目を見張って、美味しさを全身で感じていた。

ふと我に返って目の前の旭を見た。微笑みが優しくてドキッとしてしまうのだった。優しい眼差しで旭が言った。

「全身で味わってるね」
「凄いです。最後まで美味しさが押し寄せてくる感じ」
「だろ。僕といると、ここにいつでも連れてくるよ」
「食べ物には、釣られませんよ」

旭は笑った。無邪気に食べる姿は、白藍の姫が変わらずに存在していた。食べることが大好きでよく笑う。旭を見つめる眩しい笑顔。こんなにも近くにいるのに、抱きしめたいと思っても届かない手がもどかしい。
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