追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 2人は車を降りて外にいた。夜景は藍にとって、いつ見たのか覚えていない。それだけ日々の生活に余裕がなかったのだろうと思えた。 

「綺麗、久しぶりに夜景を見ました」
「僕も」
「心の余裕がないと夜景は見ないですよね」
「いえてる」
「なんか、いいですよね」

すると旭は藍を抱き上げた。まさにお姫様抱っこだ。手すりより上に藍の体を上げて、手を離せば崖から下に落ちてしまう想像ができる。

「先生、怖いですけど、私は高所恐怖症なんです」と、言いながら旭の首元にしがみ付いた。

「軽い」
「降ろしてください」
「だって、こうすると、僕に抱きついてくれる」
「それ趣味悪いですよ」

旭は面白がって、藍の体を揺り籠みたいに横へ揺らしてみた。

「ちょっと、やめて」
「ほら、上を見て満天の星がある」

抱き上げると上を見やすいと、藍を空に向けた。地面の光が見えない分、空だけを仰げた。

「こうすると星がよく見える。地面の色とりどりのライトが邪魔しないよ」
「星、とっても綺麗ですね。でも先生、夜景を見に来たんじゃないんですか?」
「そうだけど、星も見たい」

2人だけの世界は、星が降り注ぐようだった。あの頃のように星は、瞬いていた。雰囲気に流されて、同意のキスをした。求め合うように秘めた思いが溢れようとしていた。

体の奥がお互いを求めていた。だが、藍は求めてはいけないと思うのだ。理性が働いている。潜在意識の中では、旭でいっぱいになっているのに。
< 85 / 117 >

この作品をシェア

pagetop