追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 帰り道、2人は車に乗ると先程の出来事が気まずく感じた。無言でいる空間が少し息苦しくもあり、何故か心地よくもある。帰路につくが、帰りたくもあり帰るのが惜しくもある。

その道のりは、先程の優しいキスの余韻があった。熱い唇に指先を当て冷たくなった指でさました。 

ふと視線は運転している横顔の美しさに見とれていた。

昔に同じことがあったような懐かしさがある。何故か心踊り、淡い恋心を感じる。まるで藍自身が恋い焦がれているようだ。

このまま時間が止まればいいのにと、思わずにはいられないのだ。

復路は瞬く間に帰着した。まだ心の熱が冷めやらないままだったのは、藍の思いが強くなったせいだろう。

自宅に帰るとゆうが珍しく迎えてくれた。なかなか帰ってこない2人を待ちわびていたのだ。

「何してるの?待ってたのに」
「ゆう、珍しいな迎えてくれるなんて」
「だって角栄社の女性ファッション雑誌の取材でしょう。雑誌が出るまで待てない。どんなだったか聞かせてよ」
「ゆうさん、スマホで写真撮ってきました。見ます?」
「うん、見る見る」

3人はリビングに移動して、ソファーに藍とゆうが座り、頭を寄せてスマホを覗いていた。旭は紅茶を入れて3人の座る向かいのソファーに座った。

トレイの3人分の紅茶を2人の前に置いて、旭は自分のカップの紅茶を飲んだ。2人がキャッキャ笑うのを前で見て、どこが楽しいかと冷たい視線で見ていた。

「それでね。佐藤先生がインタビューで、恋愛の手ほどきって聞かれたの」
「それで旭はなんて答えたの?」
「それはこっちが聞きたいって」
「よく言うよ。モテる人が言う言葉か」
「でしょう。佐藤先生は、引く手あまたなのに」
「盛り上がってるとこ済まないか、本人を前にしてんだから僕に聞けよ」
「そりゃ、そうか」
「すみません。先生を差し置いて」

そう言うと、また藍とゆうは、スマホを見ながら仲良さそうに笑顔で話している。2人は佐藤旭の押しなのだから仕方がない。

藍を独占されて機嫌が悪い旭は、紅茶のお代わりに席を立った。
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