追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 女性ファッション雑誌が発売されると、最高の売り上げらしく携わったスタッフは全員喜んだ。旭の人気は、これ程までと思わなかったらしい。

そこらへんの人気アイドルを取材したよりも、雑誌の売り上げが爆上がりらしい。そして旭の本自体も同時に最高の売り上げになった。

 永田が言っていた新境地を開き覚醒したのだ。時代小説を書くことを避けていたが、今回の作品を書いたことで変わった。何か吹っ切れたような、すっきりした感じがした。

本が売れる理由に小説の中の人物の旭がいた。姫を愛してやまない様子が、切ないと読書は心打たれた。

こんなに愛されたら登場人物の旭を彼氏にしたいと思う。藍でさえも羨ましいと思ってしまうから、佐藤旭のファンは、たまらなく胸キュンに違いない。

 今日は事務所の会議室で、旭との打ち合わせなのに、ファンの気持ちでいた。旭がいる前で心の声が出てしまう。

「白藍の姫のように愛されたい!」
「分かった。それは前の返事だよね。やっと付き合ってくれるんだ」
「え、私、そんなこと言いました?」
「愛されたいって」
「それ、ごめんなさい。心の声漏れていました」
「心からそう思っているんだ」
「女は誰でも好きな人に愛されたいんです!」
「愛している」

藍の目を見てつぶやいた。真っ赤な顔を隠すために、ファイルを顔の前にして、旭から見えないようにした。

「なんで隠すんだよ。そんなに嫌なの?」

旭はファイルを下に外して、顔を見た。真っ赤な顔に気づき、脈ありと喜んだ。満面の笑顔で藍の横の椅子に座ると抱きしめた。

「先生、仕事中ですよ」
「だって、大林さんの真っ赤な顔が、可愛くて抱きしめたくなる」手を握り藍と向き合った。

「先生、私はもうアラサーですよ。可愛くないし」
「いや、僕には何をしても、大林さんが可愛くて仕方ない。だから付き合ってよ」
「私、5歳も年上だし、先生が思うほど、可愛くないし、好きになったら、すごく重いんです」
「いいよ」
「捨てられたら立ち直れないし」
「捨てるなんて、僕の方が重すぎて捨てられないか心配だ」
「そんなことない。私なんかと」
「私なんかじゃない。僕は大林藍さんだから好きなんだ。だから付き合い」
「いいんですか?」
「いいに決まっている。だから付き合ってよ」

藍は頷くと旭を抱きしめる。何故か涙が出た。諦めていた自分に何か望みが見えてきた感じがした。それに押しの強い人に弱い。それは昔から変わらない。
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