追想と翼望(ついそうとよくぼう)君がいるから僕の時間が動き出す
 3回目のサイン会の時、藍が席を外した。店長に呼ばれていたからだ。旭は愛想よく笑って握手していた。

男性が大きな手を出してきたので握手した。帽子を深くかぶり、サングラスをしていて、どう見ても怪しい。その声にも聞き覚えがあった。

「いい気なもんだな、先生」
「岡田か?」
「ああ、俺だ。藍は諦めたわけじゃない。俺のものだからな。藍は俺の気を引くために、そっけない態度を取っている。俺を独占したくて、意地を張っているだけだ」
「何言ってるんだ。こんな所に来て藍を脅かすなよ」
「藍に会いに来たんじゃない。あんたに会いに来たんだ。調子に乗るなよ。藍は俺のものだと思い知らせてやる。その時は後悔して、泣き叫んでもいいぞ」
「あり得ない」
「どうかな。じゃあな」

ニヤリと笑って岡田が離れていった。後味が悪くその後の事は、流れ作業のようにこなしたので記憶にない。何か嫌な予感しかしない。感情の操作ができていないのが、自分でも分かった。

せめてファンには嫌な思いをして欲しくない。そんな動揺は、誰も知られないように、張り付いたままの笑顔で誤魔化した。
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