こっちを向いて、ヴェルランド。
正確には、木霊したのは脳内の中の話であるが、確かに今ヴェルランドに話しかけられた様な気がしたのだ。
「ヴェルランド!居るのですか!?」
リーリエは声を張り上げて、彼の名を呼ぶ。
すると、先ほどまでリーリエのことを喰らおうと牙を剥いていた魔獣が突然唸り声をあげて苦しみ出す。
魔獣は地べたを這いずり回りながら、何かと戦っている様である。
「ど、どうしたの?」
「ううぅゔ…!!」
あまりにも苦しそうにのたうち回る姿に、見ていられなくなったリーリエはゆっくりと魔獣へと近づく。
「苦しいの…?」
「ううぅゔ!」
「…泣いているの?」
何故かそう思ったー。
「貴方…もしかして…ヴェルランドなの?」
「…ッ」
リーリエはその沈黙に恐る恐る魔獣の体へと触れる。
子供達の話は嘘では無かったー。
魔獣の姿はヴェルランド本人ー。
彼は、ちゃんと迎えに来てくれていたー。
「大丈夫…大丈夫だから…」
地べたで苦しそうにしていた魔獣は、リーリエの言葉に反応する様に目を細めるとその姿を徐々に人間へと変形させた。
「…ハァ…、ハァ…、、、」
ようやく、人間の姿へと戻ったヴェルランドは苦しそうに息を切らすと、ふらつきながら立ち上がった。
「ヴェルランド!」
リーリエは咄嗟に彼の身体を支えると、不安そうにヴェルランドの顔を見つめる。
「大丈夫ですか?どうぞ、気を確かに…」
「…ハァ、、ハァ…」
ヴェルランドは肩で息をしながら呼吸を整えると、リーリエの頬へと触れた。
「良かった…。リリィ…。もう大丈夫だ…」
「…は、はい。私は大丈夫です」
ごく自然に名前を間違えたヴェルランドに、リーリエは少し戸惑いながらも彼を近くにあった切り株へと案内する。
「ヴェルランド…、大丈夫ですか?」
「あぁ…。心配いらない…。お前は大丈夫か?」
「えぇ、この通り」
リーリエは優しくヴェルランドに微笑みかける。しかし心の中は酷く動揺していた。
「あの…」
「…どうした?」
「いえ…、その…アルベルトは?」
リーリエの問いかけに、ヴェルランドはハッと我に返った様子で視線を逸らす。
「…殺してはいない。しかし、生きているかどうかは不明だ」
「そうですか…」
「…何だ」
「いえ、その…」
リーリエには聞きたいことが山ほどあった。
何故魔獣に変身するのかー。
クイーンハウンドとは何なのかー。
リリィ王女とは一体どんな関係だったのかー。
何故助けに来てくれたのかー。
「…」
リーリエはどれから聞けば良いのかわからず、口籠もる。何と聞いていいのか上手い言葉が見当たらない。
すると、リーリエの気持ちを察したのかヴェルランドはどこか諦めた様に小さく溜息を吐いた。
「私は元ゼロ部隊のメンバーだ。そこではクイーンハウンドと呼ばれていた」
「クイーンハウンド…?」
「ゼロ部隊はチェスの駒に例えて、新米がポーン。熟練者がクイーンと言った具合にランク分けされている」
「では、ハウンドというのは?」
「ハウンドは主にゼロ部隊の人間を指す言葉だ。故に私はクイーンハウンド。お前を攫ったアルベルトという男は恐らくルークハウンドだろう…」
ヴェルランドの説明にリーリエは、ようやく彼の強さを理解する。確かチェスで一番最強の駒はクイーンであったはずだ。
「私は、とある任務でリリィ王女の護衛を担当していた…」
リリィ王女ー。
聞いたことがある。王国シリウスのトップがアシデュ国王からダンゼル国王へと変わった際、遥か遠くの村から連れてこられた悲劇の女王陛下。当時ニュースで大々的に結婚式が報じられ彼女の美しさに誰もが心奪われたことは今でも有名な話しである。
「彼女はとても美しい女性だった…」
彼女の事を思い出しながら過去のことを語るヴェルランドの表情はとても苦しそうだった。
「ダンゼルは私と彼女の関係をずっと疑っていた。もちろん、彼女とは立場をわきまえて接していた。だが奴の目には気に入らなかったのだろう。奴はある日、私とリリィを呼び出しリリィに屈辱を与えた上で彼女を射殺した…」
「そんな…」
あまりにも酷い話にリーリエは口元を抑える。
「で、ですが、貴方はゼロ部隊のクイーンですよね?何故止められ無かったのですか?」
彼ほどの強さがあれば、リリィ王女を救うことは可能だったはずだ。
「所詮人間の力など、魔力の前では何の意味もなさない…。ダンゼルの母は魔族だ。故に奴は魔法が使える。お陰で私は月の出ている時は外に出られない肉体になってしまった…」
「もしかして、呪いをかけられたのですか…?」
「あぁ…。お陰で屋敷から出られなくなってしまった…はずだったんだが…」
ヴェルランドは自身の手のひらを月に翳す。今はちゃんと人間としての形を維持出来ている。
「何故だ…?今は何とも無い…」
まるで、人間でいられることの方が不思議で仕方がないと言った様子で何度も自身の手のひらを月に翳して首を傾げる。
リーリエはそんなヴェルランドの様子に思わず口元を緩める。
「それはきっと私のせいかと…」
「お前の?」
相変わらず理解が出来ないといった様子のヴェルランドにリーリエは小さな声で「はい」と呟く。
「…まさか、お前も魔族なのか?」
「はい。私はカノープスの出身です」
カノープスという言葉にヴェルランドは珍しく驚きの表情を見せる。
「カノープス…、確かエルフの血を引く民が住み着いたと言われる小国…」
「はい。ですので私にも魔法は使えます。魔獣が貴方だと気付いた時、何とかして差し上げたいと思い貴方に触れたのです…」
リーリエの説明にヴェルランドはようやく自身の手を下ろす。
「…なるほど、どおりで先程から身体が軽い…。全てエルフの加護という訳か」
エルフの民には昔から不思議な能力がある。その能力は長年に渡り人々の体や心を治癒するのに役立たれて来た。しかし、そんなエルフの能力を人間は私利私欲の為に利用した。お陰でエルフの民は絶滅寸前にまで追い込まれ、現在はリーリエが住むカノープスに身を潜めて暮らしているのが実情だ。
「それで?、お前は何故ゼロ部隊に追われている?」
ようやく落ち着きを取り戻したヴェルランドはいつものように腕を組むと、一番気になっていた事を質問する。
「現在、カノープスは王国シリウスに戦争を仕掛けられています…。彼らは私たちエルフの力と共に、あの豊かな土地まで奪うつもりの様です。私は侍女と逃げる最中にシリウスの兵に捕まりました…侍女はその道すがら見せしめとして殺され、私はダンゼルの元に…後は、お察し下さい…」
顔を伏せてことの経緯を話すリーリエの姿にヴェルランドは目を細める。
「それであの屋敷まで逃げて来た訳か…」
「はい…。カペラ村は王国シリウスと比較的近いですから…。雨が上がり次第、カノープスに帰ろうとしたのです…」
リーリエはそう言うと、突然その場にしゃがみ込んだ。少しホッとしたのか先程から震えが止まらずにいる。
「…大丈夫か?」
「すみません…。何だか力が抜けてしまって…」
ヴェルランドは心配そうにリーリエの背中をさすると、周囲を見渡した。森の中ではあるが、星の見える位置からしてカペラ村と王国シリウスの中間点くらいであると推測出来る。
「恐らく近くに、リゲルとう言う街がある。そこまで歩けそうか?」
リーリエはコクリと小さく頷く。しかし、足に力が入らないのか中々立ち上がることができない。
「す、すみません…」
「気にするな…」
すると、ヴェルランドは何を思ったのか、リーリエの体を抱き上げた。
「ちょ、ちょっと!」
「すまないが我慢してくれ。こちらの方が早い…」
所詮お姫様抱っこというものにリーリエは顔を赤く染める。
「どうした?、次は暑いのか?」
「い、いえ…。何でもありません…」
リーリエの反応にヴェルランドは珍しく微笑むと、月夜の中を静かに歩き始めた。
「ヴェルランド!居るのですか!?」
リーリエは声を張り上げて、彼の名を呼ぶ。
すると、先ほどまでリーリエのことを喰らおうと牙を剥いていた魔獣が突然唸り声をあげて苦しみ出す。
魔獣は地べたを這いずり回りながら、何かと戦っている様である。
「ど、どうしたの?」
「ううぅゔ…!!」
あまりにも苦しそうにのたうち回る姿に、見ていられなくなったリーリエはゆっくりと魔獣へと近づく。
「苦しいの…?」
「ううぅゔ!」
「…泣いているの?」
何故かそう思ったー。
「貴方…もしかして…ヴェルランドなの?」
「…ッ」
リーリエはその沈黙に恐る恐る魔獣の体へと触れる。
子供達の話は嘘では無かったー。
魔獣の姿はヴェルランド本人ー。
彼は、ちゃんと迎えに来てくれていたー。
「大丈夫…大丈夫だから…」
地べたで苦しそうにしていた魔獣は、リーリエの言葉に反応する様に目を細めるとその姿を徐々に人間へと変形させた。
「…ハァ…、ハァ…、、、」
ようやく、人間の姿へと戻ったヴェルランドは苦しそうに息を切らすと、ふらつきながら立ち上がった。
「ヴェルランド!」
リーリエは咄嗟に彼の身体を支えると、不安そうにヴェルランドの顔を見つめる。
「大丈夫ですか?どうぞ、気を確かに…」
「…ハァ、、ハァ…」
ヴェルランドは肩で息をしながら呼吸を整えると、リーリエの頬へと触れた。
「良かった…。リリィ…。もう大丈夫だ…」
「…は、はい。私は大丈夫です」
ごく自然に名前を間違えたヴェルランドに、リーリエは少し戸惑いながらも彼を近くにあった切り株へと案内する。
「ヴェルランド…、大丈夫ですか?」
「あぁ…。心配いらない…。お前は大丈夫か?」
「えぇ、この通り」
リーリエは優しくヴェルランドに微笑みかける。しかし心の中は酷く動揺していた。
「あの…」
「…どうした?」
「いえ…、その…アルベルトは?」
リーリエの問いかけに、ヴェルランドはハッと我に返った様子で視線を逸らす。
「…殺してはいない。しかし、生きているかどうかは不明だ」
「そうですか…」
「…何だ」
「いえ、その…」
リーリエには聞きたいことが山ほどあった。
何故魔獣に変身するのかー。
クイーンハウンドとは何なのかー。
リリィ王女とは一体どんな関係だったのかー。
何故助けに来てくれたのかー。
「…」
リーリエはどれから聞けば良いのかわからず、口籠もる。何と聞いていいのか上手い言葉が見当たらない。
すると、リーリエの気持ちを察したのかヴェルランドはどこか諦めた様に小さく溜息を吐いた。
「私は元ゼロ部隊のメンバーだ。そこではクイーンハウンドと呼ばれていた」
「クイーンハウンド…?」
「ゼロ部隊はチェスの駒に例えて、新米がポーン。熟練者がクイーンと言った具合にランク分けされている」
「では、ハウンドというのは?」
「ハウンドは主にゼロ部隊の人間を指す言葉だ。故に私はクイーンハウンド。お前を攫ったアルベルトという男は恐らくルークハウンドだろう…」
ヴェルランドの説明にリーリエは、ようやく彼の強さを理解する。確かチェスで一番最強の駒はクイーンであったはずだ。
「私は、とある任務でリリィ王女の護衛を担当していた…」
リリィ王女ー。
聞いたことがある。王国シリウスのトップがアシデュ国王からダンゼル国王へと変わった際、遥か遠くの村から連れてこられた悲劇の女王陛下。当時ニュースで大々的に結婚式が報じられ彼女の美しさに誰もが心奪われたことは今でも有名な話しである。
「彼女はとても美しい女性だった…」
彼女の事を思い出しながら過去のことを語るヴェルランドの表情はとても苦しそうだった。
「ダンゼルは私と彼女の関係をずっと疑っていた。もちろん、彼女とは立場をわきまえて接していた。だが奴の目には気に入らなかったのだろう。奴はある日、私とリリィを呼び出しリリィに屈辱を与えた上で彼女を射殺した…」
「そんな…」
あまりにも酷い話にリーリエは口元を抑える。
「で、ですが、貴方はゼロ部隊のクイーンですよね?何故止められ無かったのですか?」
彼ほどの強さがあれば、リリィ王女を救うことは可能だったはずだ。
「所詮人間の力など、魔力の前では何の意味もなさない…。ダンゼルの母は魔族だ。故に奴は魔法が使える。お陰で私は月の出ている時は外に出られない肉体になってしまった…」
「もしかして、呪いをかけられたのですか…?」
「あぁ…。お陰で屋敷から出られなくなってしまった…はずだったんだが…」
ヴェルランドは自身の手のひらを月に翳す。今はちゃんと人間としての形を維持出来ている。
「何故だ…?今は何とも無い…」
まるで、人間でいられることの方が不思議で仕方がないと言った様子で何度も自身の手のひらを月に翳して首を傾げる。
リーリエはそんなヴェルランドの様子に思わず口元を緩める。
「それはきっと私のせいかと…」
「お前の?」
相変わらず理解が出来ないといった様子のヴェルランドにリーリエは小さな声で「はい」と呟く。
「…まさか、お前も魔族なのか?」
「はい。私はカノープスの出身です」
カノープスという言葉にヴェルランドは珍しく驚きの表情を見せる。
「カノープス…、確かエルフの血を引く民が住み着いたと言われる小国…」
「はい。ですので私にも魔法は使えます。魔獣が貴方だと気付いた時、何とかして差し上げたいと思い貴方に触れたのです…」
リーリエの説明にヴェルランドはようやく自身の手を下ろす。
「…なるほど、どおりで先程から身体が軽い…。全てエルフの加護という訳か」
エルフの民には昔から不思議な能力がある。その能力は長年に渡り人々の体や心を治癒するのに役立たれて来た。しかし、そんなエルフの能力を人間は私利私欲の為に利用した。お陰でエルフの民は絶滅寸前にまで追い込まれ、現在はリーリエが住むカノープスに身を潜めて暮らしているのが実情だ。
「それで?、お前は何故ゼロ部隊に追われている?」
ようやく落ち着きを取り戻したヴェルランドはいつものように腕を組むと、一番気になっていた事を質問する。
「現在、カノープスは王国シリウスに戦争を仕掛けられています…。彼らは私たちエルフの力と共に、あの豊かな土地まで奪うつもりの様です。私は侍女と逃げる最中にシリウスの兵に捕まりました…侍女はその道すがら見せしめとして殺され、私はダンゼルの元に…後は、お察し下さい…」
顔を伏せてことの経緯を話すリーリエの姿にヴェルランドは目を細める。
「それであの屋敷まで逃げて来た訳か…」
「はい…。カペラ村は王国シリウスと比較的近いですから…。雨が上がり次第、カノープスに帰ろうとしたのです…」
リーリエはそう言うと、突然その場にしゃがみ込んだ。少しホッとしたのか先程から震えが止まらずにいる。
「…大丈夫か?」
「すみません…。何だか力が抜けてしまって…」
ヴェルランドは心配そうにリーリエの背中をさすると、周囲を見渡した。森の中ではあるが、星の見える位置からしてカペラ村と王国シリウスの中間点くらいであると推測出来る。
「恐らく近くに、リゲルとう言う街がある。そこまで歩けそうか?」
リーリエはコクリと小さく頷く。しかし、足に力が入らないのか中々立ち上がることができない。
「す、すみません…」
「気にするな…」
すると、ヴェルランドは何を思ったのか、リーリエの体を抱き上げた。
「ちょ、ちょっと!」
「すまないが我慢してくれ。こちらの方が早い…」
所詮お姫様抱っこというものにリーリエは顔を赤く染める。
「どうした?、次は暑いのか?」
「い、いえ…。何でもありません…」
リーリエの反応にヴェルランドは珍しく微笑むと、月夜の中を静かに歩き始めた。