こっちを向いて、ヴェルランド。
どれほどの間眠っていたのだろうかー。
ヴェルランドはその重たい瞼を開くと、気怠げにその上半身を起こした。
(ここは…?)
確か、最後の記憶では荒野の砂漠に居たはずだ。
ヴェルランドは静かに立ち上がると、無機質な室内を見渡す。
部屋というには広すぎるそこは、どちらかと言えば神殿の様である。
(シリウスにこういった建造物はない…)
壁には謎の壁画が描かれ、人間を模した女神の彫刻が彫られている。
ヴェルランドは近くに自身の銃を見つけるとそれを手に取る。銃は何者かによって磨かれており銃口部分は鏡の様に光を反射している。
「目が覚めましたか?」
ヴェルランドはその声に驚いて、振り返る。すると、そこには美しい一人の女が立っていた。
「…リーリエ?」
一瞬そう思ったが、女は困った様に微笑んだ。
「どちらかというと夫似なんですよ」
「…え」
戸惑うヴェルランドに女は静かに近づくと、そっとヴェルランドの頬に触れる。
「もう怪我は治った様ですね。良かった…」
「お前は…」
「申し遅れました。私はリーリエの母、ルール・ギモーヴです」
「母…」
カノープスの民はエルフの血を受け継ぐ者達。故に歳を取らないとは聞いていたが、まさかこんなにも瓜二つだとは思いもしなかった。
「ヴェルランド・ヴァイスハイトですね。この度は娘が大変お世話になりました」
ルールがそういって頭を下げると、ヴェルランドは気まずそうに視線を逸らす。
「私は…別に…」
「主人が貴方に会いたがっております。どうぞ、お元気な様でしたら今からお会いになってくださらないかしら?」
ルールの言葉にヴェルランドは少し思案するも、仕方なく頭を縦に振る。
神殿はカノープスの近くに位置する、礼拝堂の様な所で一部の国民が非難する場所となって居た。
ヴェルランドはルールに連れられ、神殿の中央部まで来ると一際威厳のある男達に出迎えられた。
「ヴェルランド・ヴァイスハイトだな」
一人の聡明そうな男がヴェルランドに近づくと、丁寧に胸に手を当て頭を下げる。
「私はハオ・ギモーヴ。カノープスの王であり、リーリエの父だ」
「…父」
ヴェルランドは再びその若さに驚かされる。
「この度は娘を守ってくれた事恩に切る…」
「リーリエはどうした?」
「残念ながらダンゼルに捕まってしまった」
「…」
ハオの言葉にヴェルランドは悔しそうに拳を握りしめる。
「お前は荒野で瀕死状態のところを我々の兵が見つけ、ここへと運んだ」
「何故、私は生きている…」
「我々の魔力をお前に分けたんだ」
ヴェルランドは自身の右手を握ったり開いたりしながら、確かに身体が軽いことを理解する。
「だが、その魔力は期間限定だ。リーリエからも魔力を貰っていた様だが、エルフの加護はその者が側にいない限り効力を発揮しない…」
「フン、なるほどな」
通りで、リーリエと別れてからというもの身体が重たい訳だ。
「それで?、私を生かしたからには何か要求があるんだろ?」
ヴェルランドは腕を組んで、カノープスの国王に尋ねる。
「流石話が早いな。お前には娘の奪還を依頼したい」
ハオの要求にヴェルランドは分かりやすくため息を吐く。
「取り戻してやりたいのは山々だが、奴は魔法が使える様だ。私の様な元人間にはどうすることも出来ない」
残念ながら、今のヴェルランドにはダンゼルの魔法に対抗できる手段が何一つない。
「それなら方法が一つだけある。着いてこい」
ハオはそう言うと、ヴェルランドを一つの部屋へと案内した。
連れてこられた場所は小さな書庫の様な場所で、世界中の様々な書物が丁寧に保管されていた。
ハオは一冊の本の前で立ち止まると、それをヴェルランドへと手渡す。
「これは…?」
ヴェルランドはその本を受け取ると、パラパラとページを捲る。古代文字の様な文章が永遠と羅列され、所々に奇妙なイラストが記載されている。
「それは我らに代々伝わる、封印の書だ」
「封印の書…」
ヴェルランドは聞いたことのない本の名前に顔を顰める。
「それは我らの叡智を結集して作られた、本の牢獄だ。そこに封印されたものは罪を償うまでその書物から出ることは出来ない」
ハオはそう言うと再びヴェルランドから本を取り上げる。
「そこにダンゼルを封印する気か?」
「あぁ、そうだ。しかし、ダンゼルをこの書物に封印するには神官者の筆が必要だ」
「じゃあ、さっさとその筆を探してダンゼルを封印すればいい…」
「そうしたいのは山々だが、残念ながら神官者の筆はダンゼル本人が持っている…」
「何…?」
「ダンゼルの母は元々カノープス出身だ。だが色々と問題の有る女でな。国から追放した際に盗んだ様なんだ」
ハオはため息を吐くと、本棚から一枚の紙切れを取り出す。
「これが神官者の筆だ。見た目は普通の羽ペンにしか見えないが、近づけばそのオーラにすぐ見分けがつくはずだ」
ヴェルランドは紙を受け取ると、その形状をしっかりと記憶する。
「神官者の筆を見つけ次第、どのページでも構わん、奴の名前をその筆で書き記せ。そうすればダンゼルは本の中に封印される」
ハオの言葉にヴェルランドは分かりやすく顔を顰める。
「…私がやるのか?そもそも何故こんな本がありながら、お前達は今までダンゼルを放任していた?」
今までにも、ダンゼルをこの書に封印する機会はいくらでもあったはずだ。
「ダンゼルがあれほどまでに傍若無人になったのはここ数年の事だ。それまで我々はアシデュ王と良い関係を築いてきた。それに筆が盗まれていることに気がついたのもここ最近の事だ。我々は最初から奴の掌で踊らされていた訳だ」
ハオは面目ないと言った表情で両手を上げた。
「今カノープスは大国の兵を相手に手を焼いている。いくら魔法が使えるからといっても、あれだけの大群とやり合うのは骨が折れる…、それに奴らは最新鋭の兵器をこれでもかと投入してきた。今はお前に頼る他ない…」
ハオの言葉にヴェルランドは小さくため息を吐く。
「ダンゼルを封印しお前の娘を取り返すことは約束しよう…。ただ、その代わり私の要求も聞いてくれ」
「なんだ?、金か?」
「違う」
「…残念ながらお前の呪いを解いてやることはできん」
「それも違う…」
「では、なんだ?」
ハオは少し困った様に眉根を下げる。
「私の要求はただ一つ。勝て。シリウスに勝てるのは今や魔法を使えるカノープスくらいだ」
意外な要求にハオは驚く。
「勝てるものならそうしたい。だがー」
「カノープスが平和でない以上、リーリエをここへは連れてこない」
「…何故そこまで」
はっきり言ってヴェルランドにシリウスとカノープスの戦争は全く関係がないはずである。
「リーリエを死なせたくはない…」
ヴェルランドの気持ちにハオは黙り込む。
「彼女には平和な国で笑っていてほしい。花を愛で、美しい空を仰ぎ、愛する人と幸せになってほしい」
「…」
「私は愛する人を守れなかった。今度は守ってやりたい。その為にはカノープスは平和な国でなくてはならない。平和な国であるには、腐ったシリウスを倒さねばならない…」
「それが、お前の本当の要求か?」
「そうだ。何がなんでもシリウスに勝て。そして娘に平和な未来を残してやってほしい…頼む」
どうか、
彼女が無邪気に笑って過ごせる未来を。
それが叶うなら、私は何だってしよう。
ヴェルランドはその重たい瞼を開くと、気怠げにその上半身を起こした。
(ここは…?)
確か、最後の記憶では荒野の砂漠に居たはずだ。
ヴェルランドは静かに立ち上がると、無機質な室内を見渡す。
部屋というには広すぎるそこは、どちらかと言えば神殿の様である。
(シリウスにこういった建造物はない…)
壁には謎の壁画が描かれ、人間を模した女神の彫刻が彫られている。
ヴェルランドは近くに自身の銃を見つけるとそれを手に取る。銃は何者かによって磨かれており銃口部分は鏡の様に光を反射している。
「目が覚めましたか?」
ヴェルランドはその声に驚いて、振り返る。すると、そこには美しい一人の女が立っていた。
「…リーリエ?」
一瞬そう思ったが、女は困った様に微笑んだ。
「どちらかというと夫似なんですよ」
「…え」
戸惑うヴェルランドに女は静かに近づくと、そっとヴェルランドの頬に触れる。
「もう怪我は治った様ですね。良かった…」
「お前は…」
「申し遅れました。私はリーリエの母、ルール・ギモーヴです」
「母…」
カノープスの民はエルフの血を受け継ぐ者達。故に歳を取らないとは聞いていたが、まさかこんなにも瓜二つだとは思いもしなかった。
「ヴェルランド・ヴァイスハイトですね。この度は娘が大変お世話になりました」
ルールがそういって頭を下げると、ヴェルランドは気まずそうに視線を逸らす。
「私は…別に…」
「主人が貴方に会いたがっております。どうぞ、お元気な様でしたら今からお会いになってくださらないかしら?」
ルールの言葉にヴェルランドは少し思案するも、仕方なく頭を縦に振る。
神殿はカノープスの近くに位置する、礼拝堂の様な所で一部の国民が非難する場所となって居た。
ヴェルランドはルールに連れられ、神殿の中央部まで来ると一際威厳のある男達に出迎えられた。
「ヴェルランド・ヴァイスハイトだな」
一人の聡明そうな男がヴェルランドに近づくと、丁寧に胸に手を当て頭を下げる。
「私はハオ・ギモーヴ。カノープスの王であり、リーリエの父だ」
「…父」
ヴェルランドは再びその若さに驚かされる。
「この度は娘を守ってくれた事恩に切る…」
「リーリエはどうした?」
「残念ながらダンゼルに捕まってしまった」
「…」
ハオの言葉にヴェルランドは悔しそうに拳を握りしめる。
「お前は荒野で瀕死状態のところを我々の兵が見つけ、ここへと運んだ」
「何故、私は生きている…」
「我々の魔力をお前に分けたんだ」
ヴェルランドは自身の右手を握ったり開いたりしながら、確かに身体が軽いことを理解する。
「だが、その魔力は期間限定だ。リーリエからも魔力を貰っていた様だが、エルフの加護はその者が側にいない限り効力を発揮しない…」
「フン、なるほどな」
通りで、リーリエと別れてからというもの身体が重たい訳だ。
「それで?、私を生かしたからには何か要求があるんだろ?」
ヴェルランドは腕を組んで、カノープスの国王に尋ねる。
「流石話が早いな。お前には娘の奪還を依頼したい」
ハオの要求にヴェルランドは分かりやすくため息を吐く。
「取り戻してやりたいのは山々だが、奴は魔法が使える様だ。私の様な元人間にはどうすることも出来ない」
残念ながら、今のヴェルランドにはダンゼルの魔法に対抗できる手段が何一つない。
「それなら方法が一つだけある。着いてこい」
ハオはそう言うと、ヴェルランドを一つの部屋へと案内した。
連れてこられた場所は小さな書庫の様な場所で、世界中の様々な書物が丁寧に保管されていた。
ハオは一冊の本の前で立ち止まると、それをヴェルランドへと手渡す。
「これは…?」
ヴェルランドはその本を受け取ると、パラパラとページを捲る。古代文字の様な文章が永遠と羅列され、所々に奇妙なイラストが記載されている。
「それは我らに代々伝わる、封印の書だ」
「封印の書…」
ヴェルランドは聞いたことのない本の名前に顔を顰める。
「それは我らの叡智を結集して作られた、本の牢獄だ。そこに封印されたものは罪を償うまでその書物から出ることは出来ない」
ハオはそう言うと再びヴェルランドから本を取り上げる。
「そこにダンゼルを封印する気か?」
「あぁ、そうだ。しかし、ダンゼルをこの書物に封印するには神官者の筆が必要だ」
「じゃあ、さっさとその筆を探してダンゼルを封印すればいい…」
「そうしたいのは山々だが、残念ながら神官者の筆はダンゼル本人が持っている…」
「何…?」
「ダンゼルの母は元々カノープス出身だ。だが色々と問題の有る女でな。国から追放した際に盗んだ様なんだ」
ハオはため息を吐くと、本棚から一枚の紙切れを取り出す。
「これが神官者の筆だ。見た目は普通の羽ペンにしか見えないが、近づけばそのオーラにすぐ見分けがつくはずだ」
ヴェルランドは紙を受け取ると、その形状をしっかりと記憶する。
「神官者の筆を見つけ次第、どのページでも構わん、奴の名前をその筆で書き記せ。そうすればダンゼルは本の中に封印される」
ハオの言葉にヴェルランドは分かりやすく顔を顰める。
「…私がやるのか?そもそも何故こんな本がありながら、お前達は今までダンゼルを放任していた?」
今までにも、ダンゼルをこの書に封印する機会はいくらでもあったはずだ。
「ダンゼルがあれほどまでに傍若無人になったのはここ数年の事だ。それまで我々はアシデュ王と良い関係を築いてきた。それに筆が盗まれていることに気がついたのもここ最近の事だ。我々は最初から奴の掌で踊らされていた訳だ」
ハオは面目ないと言った表情で両手を上げた。
「今カノープスは大国の兵を相手に手を焼いている。いくら魔法が使えるからといっても、あれだけの大群とやり合うのは骨が折れる…、それに奴らは最新鋭の兵器をこれでもかと投入してきた。今はお前に頼る他ない…」
ハオの言葉にヴェルランドは小さくため息を吐く。
「ダンゼルを封印しお前の娘を取り返すことは約束しよう…。ただ、その代わり私の要求も聞いてくれ」
「なんだ?、金か?」
「違う」
「…残念ながらお前の呪いを解いてやることはできん」
「それも違う…」
「では、なんだ?」
ハオは少し困った様に眉根を下げる。
「私の要求はただ一つ。勝て。シリウスに勝てるのは今や魔法を使えるカノープスくらいだ」
意外な要求にハオは驚く。
「勝てるものならそうしたい。だがー」
「カノープスが平和でない以上、リーリエをここへは連れてこない」
「…何故そこまで」
はっきり言ってヴェルランドにシリウスとカノープスの戦争は全く関係がないはずである。
「リーリエを死なせたくはない…」
ヴェルランドの気持ちにハオは黙り込む。
「彼女には平和な国で笑っていてほしい。花を愛で、美しい空を仰ぎ、愛する人と幸せになってほしい」
「…」
「私は愛する人を守れなかった。今度は守ってやりたい。その為にはカノープスは平和な国でなくてはならない。平和な国であるには、腐ったシリウスを倒さねばならない…」
「それが、お前の本当の要求か?」
「そうだ。何がなんでもシリウスに勝て。そして娘に平和な未来を残してやってほしい…頼む」
どうか、
彼女が無邪気に笑って過ごせる未来を。
それが叶うなら、私は何だってしよう。