Last quarter
Vol.3
「美月……。俺は今、モーレツに感動してる。いつもおまえに教えられてばかりだな」
明也がふと美月のほうに顔を向けると目が合った。すると美月は、はにかんだように目を逸らし、溜息交じりに呟いた。
「ううん。私も遥さんに教えてもらったのよ。どうしたら素直になれるのって聞いたらそう教えてくれたんだ」
「そうか、遙さんが教えてくれたのか。あの人はほんとうにロマンチストだからな。でも、何で美月が素直にならなきゃいけないんだ。おまえはもともと素直な娘だよ。一体、誰に素直じゃないんだ」
「……」
美月は何も応えずにそっと小さな吐息を吐いた。そして寝返りを打つと、朋也の胸に頬を預け上目遣いで呟いた。
「それ、言わせるつもり?」
「はい?」
訳が分からないといった表情をした朋也をしげしげと見つめると、美月は呆れたように口を開いた。
「ホントにお義兄ちゃんは女心が分からない人だなって、今、改めて気付きました。こんなんじゃ紗月さんが不安になる気持ちも分かるな」
完全に立場が逆転している。美月が出来の良い義姉で、自分は出来の悪い義弟になった気分だった。
でも、こんなふうにお互いの立場や年齢を気にせずに意見をぶつけたり、話したりすることが出来る相手がいるということはとても大切なことだ。学べる世界をより深く、より広げていくことが出来る。
そう、紗月さんに惹かれたときもこんなふうに思っていた。
人を好きになるのが理屈じゃないように、年の差だって理屈じゃない。年の差を気にして素直になれない。
こんな些細なことがお互いの疑問となり、お互いに誤解と不安を生みだすくらいなら正直に正面からぶつかればいいだけのことだ。
自分が年下だということに対して紗月さんに負担をかけているとしたなら、彼女だって自分が年上だということに不安や重さを抱えているはずだ。
そうだったんだ。年の差なんて仕方がないという自分の気持ちばかりを優先し過ぎて、相手の気持ちと思いを考えていなかった。
「好き」
その気持ちだけでも充分なのだ。
何を求めるわけでもない。何かが必要なわけでもない。彼女の嬉しそうな笑顔が見られるだけで。彼女の楽しげな声が聞けるだけで。彼女がいつも傍にいるだけで。
彼女の想いをキチンと受け止めてさえいれば他には何もいらないのだ。
お互いを見つめあっているだけではなく、お互いが同じ方向を、同じものを見ていくことが大切なのだ。
これがひとつのきっかけだとしたらあとは自分で自分の背中を押せばいい。もう背中を押してもらうのを待つ必要なんてない。朋也の心は深かった穴の出口にもう手が掛かっていた。
「じゃあさ、そろそろ何が原因で紗月さんと喧嘩したのか教えてくれる? 何となくだけどお義兄ちゃん、墓穴掘って落っこちたんでしょ」
ずばり言い当てられた朋也は、苦笑しながら待ち合わせをしていた場所に大学の女の子たちがついてきたところから、かいつまんで美月に話を聞かせた。
話を聞き終えた美月は、呆れ返った目で明也を見つめた。
「まったく……。お義兄ちゃんってホント、女心に疎いのね。鈍感って言ったほうがいいのかなぁ」
「ほっとけ。ついさっき自覚したところだ」
非難するような目で見られていることで、朋也は照れ隠しのように呟いた。
「遙さんもロマンチストだけど、こういうことには疎そうだしなぁ。やれやれ、星ばかり見ている男の人って、どうしてこんなのばっかりなんだろ」
寝転がって話をしていたことで、二人とも遠慮せずに会話のキャッチボールが出来ている。
確かにこうしているとほんとうに話しやすい。義妹とはいえ、なかなかこんな悩み事は話せるものではない。
なのに、不思議と素直に相談が出来ている。天井に貼ってある星たちの写真のおかげかなと、朋也は一人微笑んでいた。
「でもね、お義兄ちゃんの場合は態度でバレバレだと思うよ。純粋に相手のことを心から好きだっていう気持ちが態度に出ているだろうし。それに何ていうのかな……。お義兄ちゃん、紗月さんのこと話しているときの表情がとても柔らかいもの。目もすごく穏やかで優しいの。紗月さんもそういうところ、きっと分かっていると思う。でなきゃ今頃、さよならメールのひとつやふたつ届いていてもおかしくないよ」
もう明日からはおまえのことをお義姉さんと呼ばせて欲しい。
それがダメなら向こう一年くらいは下僕として仕えてもいいと、明也は心の中で土下座したい気持だった。
「どうしてそんなことが分かるんだ。女性同士の勘ってやつ?」
美月は又、寝返りを打ち、朋也に甘えるようにぴたりと身体を寄せた。
「ううん。きっと紗月さんと私は同じなんだって思うから自分に置き換えただけ。紗月さんのこと、気が強い人だってお義兄ちゃんは言ってたけど、それは違うと思うの。気弱な自分の裏返しなんだよ。ほんとうは今すぐにでも好きだって言われて、抱きしめて欲しいはずよ」
明也がふと美月のほうに顔を向けると目が合った。すると美月は、はにかんだように目を逸らし、溜息交じりに呟いた。
「ううん。私も遥さんに教えてもらったのよ。どうしたら素直になれるのって聞いたらそう教えてくれたんだ」
「そうか、遙さんが教えてくれたのか。あの人はほんとうにロマンチストだからな。でも、何で美月が素直にならなきゃいけないんだ。おまえはもともと素直な娘だよ。一体、誰に素直じゃないんだ」
「……」
美月は何も応えずにそっと小さな吐息を吐いた。そして寝返りを打つと、朋也の胸に頬を預け上目遣いで呟いた。
「それ、言わせるつもり?」
「はい?」
訳が分からないといった表情をした朋也をしげしげと見つめると、美月は呆れたように口を開いた。
「ホントにお義兄ちゃんは女心が分からない人だなって、今、改めて気付きました。こんなんじゃ紗月さんが不安になる気持ちも分かるな」
完全に立場が逆転している。美月が出来の良い義姉で、自分は出来の悪い義弟になった気分だった。
でも、こんなふうにお互いの立場や年齢を気にせずに意見をぶつけたり、話したりすることが出来る相手がいるということはとても大切なことだ。学べる世界をより深く、より広げていくことが出来る。
そう、紗月さんに惹かれたときもこんなふうに思っていた。
人を好きになるのが理屈じゃないように、年の差だって理屈じゃない。年の差を気にして素直になれない。
こんな些細なことがお互いの疑問となり、お互いに誤解と不安を生みだすくらいなら正直に正面からぶつかればいいだけのことだ。
自分が年下だということに対して紗月さんに負担をかけているとしたなら、彼女だって自分が年上だということに不安や重さを抱えているはずだ。
そうだったんだ。年の差なんて仕方がないという自分の気持ちばかりを優先し過ぎて、相手の気持ちと思いを考えていなかった。
「好き」
その気持ちだけでも充分なのだ。
何を求めるわけでもない。何かが必要なわけでもない。彼女の嬉しそうな笑顔が見られるだけで。彼女の楽しげな声が聞けるだけで。彼女がいつも傍にいるだけで。
彼女の想いをキチンと受け止めてさえいれば他には何もいらないのだ。
お互いを見つめあっているだけではなく、お互いが同じ方向を、同じものを見ていくことが大切なのだ。
これがひとつのきっかけだとしたらあとは自分で自分の背中を押せばいい。もう背中を押してもらうのを待つ必要なんてない。朋也の心は深かった穴の出口にもう手が掛かっていた。
「じゃあさ、そろそろ何が原因で紗月さんと喧嘩したのか教えてくれる? 何となくだけどお義兄ちゃん、墓穴掘って落っこちたんでしょ」
ずばり言い当てられた朋也は、苦笑しながら待ち合わせをしていた場所に大学の女の子たちがついてきたところから、かいつまんで美月に話を聞かせた。
話を聞き終えた美月は、呆れ返った目で明也を見つめた。
「まったく……。お義兄ちゃんってホント、女心に疎いのね。鈍感って言ったほうがいいのかなぁ」
「ほっとけ。ついさっき自覚したところだ」
非難するような目で見られていることで、朋也は照れ隠しのように呟いた。
「遙さんもロマンチストだけど、こういうことには疎そうだしなぁ。やれやれ、星ばかり見ている男の人って、どうしてこんなのばっかりなんだろ」
寝転がって話をしていたことで、二人とも遠慮せずに会話のキャッチボールが出来ている。
確かにこうしているとほんとうに話しやすい。義妹とはいえ、なかなかこんな悩み事は話せるものではない。
なのに、不思議と素直に相談が出来ている。天井に貼ってある星たちの写真のおかげかなと、朋也は一人微笑んでいた。
「でもね、お義兄ちゃんの場合は態度でバレバレだと思うよ。純粋に相手のことを心から好きだっていう気持ちが態度に出ているだろうし。それに何ていうのかな……。お義兄ちゃん、紗月さんのこと話しているときの表情がとても柔らかいもの。目もすごく穏やかで優しいの。紗月さんもそういうところ、きっと分かっていると思う。でなきゃ今頃、さよならメールのひとつやふたつ届いていてもおかしくないよ」
もう明日からはおまえのことをお義姉さんと呼ばせて欲しい。
それがダメなら向こう一年くらいは下僕として仕えてもいいと、明也は心の中で土下座したい気持だった。
「どうしてそんなことが分かるんだ。女性同士の勘ってやつ?」
美月は又、寝返りを打ち、朋也に甘えるようにぴたりと身体を寄せた。
「ううん。きっと紗月さんと私は同じなんだって思うから自分に置き換えただけ。紗月さんのこと、気が強い人だってお義兄ちゃんは言ってたけど、それは違うと思うの。気弱な自分の裏返しなんだよ。ほんとうは今すぐにでも好きだって言われて、抱きしめて欲しいはずよ」