浮気調査を依頼した敏腕弁護士が、傷心の私を溺愛して離してくれません
「行きません」

小さく笑って部屋を出る。

事務所の廊下は静かだった。

自販機でカフェオレを買っていると、後ろから声を掛けられる。

「水上さん?」

振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。

三十代くらいだろうか。柔らかな雰囲気のスーツ姿。

「日向の依頼人の方ですよね? 俺、同じ事務所の三浦です」

「あ、いつもお世話になってます」

私は慌てて頭を下げた。

三浦先生は笑う。

「いやー、日向が女性を家に上げるなんて初めてだから、事務所でちょっと騒ぎになってて」

「えっ?」

一気に顔が熱くなる。

「そんな、別に……」

「大事にされてますね」

からかうように言われて、私は困って笑った。

その時だった。

「三浦先生」

低い声が廊下へ響く。

振り返ると、少し離れた場所に日向先生が立っていた。

空気が変わる。

いつもの冷静な表情なのに、明らかに機嫌が悪い。
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