浮気調査を依頼した敏腕弁護士が、傷心の私を溺愛して離してくれません
「桃子……」

私はゆっくり首を横に振った。

もう戻れない。

戻りたくない。

すると敬さんが後ろ手に、そっと私の指へ触れる。

包み込むように握ってくれる大きな手。

その温かさに、胸がじわっと熱くなった。

私はその手を握り返す。

隼太はそれを見て、何も言えなくなったみたいに視線を落とした。

そして小さく舌打ちすると、そのまま去っていく。

扉が閉まる。

私は力が抜けたみたいに息を吐いた。

すると敬さんが振り返る。

「大丈夫ですか」

私は小さく頷いた。

本当に大丈夫だった。

だって今は、私を守ってくれる人がいるから。

隼太が帰ったあと、部屋には重い静けさが残っていた。

私はソファへ座ったまま、小さく息を吐く。

敬さんはキッチンでコーヒーを淹れていた。

その後ろ姿を見ていると、不思議と落ち着く。

しばらくして、湯気の立つマグカップが目の前へ置かれた。
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