浮気調査を依頼した敏腕弁護士が、傷心の私を溺愛して離してくれません
「ありがとうございます」

「甘めです」

私は少しだけ笑った。

敬さんは向かい側へ腰を下ろす。

けれど今日は、どこか表情が静かすぎた。

私はマグカップを両手で包み込みながら、小さく口を開く。

「……さっき、どうしてあんなに怒ってたんですか」

すると敬さんは少しだけ視線を伏せた。

珍しい反応だった。

「怒っていましたか」

「はい」

私は頷く。

「いつもより、ずっと」

沈黙が落ちる。

雨の気配だけが窓の向こうに滲んでいた。

やがて敬さんは小さく息を吐く。

「昔、婚約していた人がいました」

私は思わず顔を上げた。

敬さんが、自分のことを話すなんて初めてだった。

「結婚直前に、別の男と関係を持っていたことが分かりました」

静かな声。

感情を抑えているのが逆に分かる。

私は何も言えなかった。
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